サマンサ・フィッシュが2026年2月、ブルーノート東京で来日公演を行った。
コンテンポラリー・ブルースの旗手として支持されるギタリスト/シンガー・ソングライターのサマンサだが、最新アルバム『Paper Doll』がグラミー賞ノミネート、クリストーン“キングフィッシュ”イングラムとの北米ツアーも成功を収めるなど、その評価は上昇中。若い世代の音楽ファンの目をブルースに向ける求心力で注目されている。
2025年10月に日本初上陸を果たした彼女だが、初日の1stステージを終えたところで体調不良でダウン。残りの公演をキャンセルして帰国している。だがそれからわずか4ヶ月で、彼女は日本に戻ってくることになった。
公演最終日となる2026年2月13日、1stステージの直前に楽屋にてサマンサへのインタヴューを敢行。2日間(1日2公演)を経て日本市場への本格侵攻の手応えを感じたのか、彼女は余裕すら窺わせる語り口で現代のブルースを語ってくれた。
[取材・文/山﨑智之]
[取材協力]BLUE NOTE TOKYO /CONCORD Label Group
[ライヴ写真撮影]佐藤 拓央
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魂に導かれるままに
――ブルースの聖火を未来へと継承していく存在である意識はありますか?『Runaway』(2011)のタイトル・トラックにあるように“run away from the blues”したくなることもある?
SF「“Run Away”を書いたときはソングライターとして駆け出しだったし、赤ん坊のようなものだった。ブルースには相反する感情を持っているわ。私は古典的なブルースを愛しているし、いつまでも生き続けて欲しいと思っている。そのために出来ることだったら、ベストを尽くすつもりよ。その一方で、アーティストとして自分の可能性を切り開いていきたい。それはトラディショナルなブルースとはまた異なったものでもあり得る。とは言っても、自分のプレイする音楽には必ずどこかにブルースがあるでしょうね。最新作『Paper Doll』はまさにそうだった。どの曲もノース・ミシシッピのヒル・カントリー・ブルースが根っこにあった。“Lose You”のようなソウル・ソングでも当初、私の頭の中ではジュニア・キンブロウがプレイしているようだったのよ。そんな自分の音楽を出来るだけ多くの人たちに届けていきたいわね」
――ギブソンSGを手に入れた理由のひとつがアンガス・ヤングが弾いていたからとおっしゃっていましたが、あなたのギター・スタイルにはロック的な側面があります。保守的なブルース・ファン層に「ロック過ぎる、そんなのブルースじゃない」と言われたりすることはありませんか?
SF「よくあることよ(苦笑)。結局、自分の魂に導かれるままに進んでいくしかない。それを大勢の人が気に入ってくれたら嬉しいけど、そうでなくてもまあ、仕方がないわ。私はさまざまな音楽をスポンジのように吸収してきたし、そんな影響が表れているのよ」
――近年ブルースが盛り上がっているとはいえ、メインストリーム市場においては決してメジャーな存在ではなく、さらに白人、女性となるとかなりのマイノリティになると思います。もちろんボニー・レイットやスー・フォーリーなど白人女性のブルース・ギタリストは多く活躍してきましたが、あなたが音楽シーンで活動するのに壁を感じることはありますか?
SF「私は自分にしかなったことがないし、他の音楽をやったことがないから、他の人だったらぶつからずに済む壁があるのか判らない。とにかく私に出来ることをやるだけよ。それを見て、自分もやってみよう!と思い立つ人がいたら嬉しい。どんな人種、どんな音楽スタイルだろうと構わずね。私のレコードを聴いてブルースをやろう!と誰かが思ってくれたら最高に嬉しいわ」
――日本の若い女性がもっとブルースを演奏するようになるには、どうしたら良いでしょうか?
SF「それは判らないわね(苦笑)。大事なのは、ブルースに触れる場を作ることだと思う。自分のことを振り返ると、ブルース・クラブに通うようになったことがきっかけだった。ミュージシャンがプレイするのを見て、それまで得たことのない、点と点が繋がるような感覚があったのよ。本物に接する機会があることが大事ね」
B.B.は観るだけで学ぶことが多かった
――ブルース・ヒーローやギター・ヒーローはいますか?
SF「たくさんいるわ。フレディ・キングはもちろんだし、B.B.キングのたった1音に込めたビューティフルなエモーション、R.L.バーンサイド、ジュニア・キンブロウ、ジェシー・メイ・ヘンフィル、それからノース・ミシシッピ・オールスターズ、チャーリー・パットン、フレッド・マクダウェル・・・・・・スキップ・ジェイムズの声はファルセットが入っていて、忘れられなかった。ブルース以外のギタリストだったらキース・リチャーズやマイク・キャンベル、最近の人ならデレク・トラックスかな」
――B.B.キングと直接会う機会はありましたか?
SF「B.B.のライヴはシカゴで見たことがあったけど、話す機会はなかった。教えて欲しいことがたくさんあったのに、残念ね。でも彼のショーは素晴らしくて、観るだけで学ぶことが多かったわ」
――ブルース界にはジョニー&エドガーのウィンター兄弟、ジミーとスティーヴィ・レイのヴォーン兄弟など、兄弟プロジェクトが結成されてきましたが、姉上のアマンダ・フィッシュとの共演は可能性があるでしょうか?
SF「一緒にスタジオに入ってアルバムを作る予定は今のところないわ。2人とも独自のキャリアを経てきたし、別々の音楽をやっているから。一緒にやるよりも、それぞれのアイデンティティを確立させているところよ。でも仲は良いし、お互いのキャリアを助け合っているから、相手のアルバムにゲスト参加したり、何かのライヴ・イベントで共演したりすることはあるかも知れない。急ぐ必要はないし、いずれ実現するでしょうね」
――日本公演の後のスケジュールを教えて下さい。
SF「自宅に戻って1週間したら今度はイギリスに向かうわ。その後はヨーロッパも回るし、しばらくはツアー生活よ。大勢の人に聴いてもらうことで、自分のキャリアはもちろん、ブルースという音楽が聴き継がれると嬉しい。それでも私自身は特定のジャンルにこだわるのでなく、常にクリエイティヴでありたいわね」
取材のあと、1stステージを観に会場へ。前回、たった一度のステージが評判となったのか、かなりの盛況ぶりで、開演前から熱気が立ちこめていた。
サマンサとバンドがステージに上がり、1曲目“Kick Out The Jams”の演奏を始めると、興奮と戸惑いがミックスした声援が上がる。元々ロック色の濃いサウンドで人気を博してきた彼女だが、いきなり“元祖パンク”であるMC5のカヴァーとは。それから『Paper Doll』からのナンバーが連打されるが、ジャズ・クラブらしからぬ大音量、サマンサの黒レザー上下のコスチュームなど、ロッキンなショーが繰り広げられた。当初予定されていたベーシストが天候の事情で日本に来られず、急遽最初の2日はKenKen(RIZE)、最終日は日本在住のバビー・ルイスが助っ人参加したが、彼女のスタイルを心得たパワフルなベース・ラインで彼女をバックアップしている。
それでも彼女の血中を流れるのがブルースなのは明らかだ。エレクトリック・ナンバーであってもリード・ギターの基調はペンタトニックであり、後半戦に入るところでアコースティック・ブルースのコーナーを設ける。フィナーレはR.L.バーンサイドの特濃カヴァー“Goin’ Down South”だった。
Paper Doll
SAMANTHA FISH
CD(Rounder 888072674882)
グラミー賞にノミネートされた2025年最新作
Samantha Fish オフィシャルHP samanthafish.com/