ブルース&ソウル・レコーズ

【特集:伝えておきたいブルースのこと】㉗ブルース、吹き飛ばされる?

“ロックンロールの神様”チャック・ベリーもブルースが下地にある

「ロックンロールのおかげで、ブルースはずいぶん手ひどくやられたよ。みんな騒ぎたがるんで、もうスロー・ブルースは演れなくなっちまった」(『マディ・ウォーターズ ブルースの覇者』サンドラ・B・トゥーズ著/西垣浩二訳)

 マディが語るように、ロックンロールの大ブームによってブルースは脇に追いやられたかもしれない。しかしロックンロールと名付けられた音楽は、マディのブルースの子供でもあった。

 エルヴィス・プレスリーがRCAヴィクターから〈ハートブレイク・ホテル〉でメジャー・デビューしたのが1956年。ロックンロールを代表する二人、チャック・ベリーとボ・ディドリーは前年に〈メイベリーン〉と〈ボ・ディドリー〉でR&Bチャート首位を獲得。両者ともにチェス・レコードから幸先のよいデビューを飾った。

 チャック・ベリーはマディをヒーローにしていた。「自分のインスピレーションの一番の源」(前掲書)とも語っている。だがそのギターはTボーン・ウォーカーの奏法を受け継ぎ、カントリー・ミュージックの要素も加えられていた。ルイ・ジョーダンやチャールズ・ブラウンなど洗練されたリズム&ブルースからも影響を受けていた。

 ボ・ディドリーは〈ビフォア・ユー・アキューズ・ミー〉などで、シカゴの路上で培ったブルースを聴かせていたが、トレードマークの「ディドリー・ビート」(ジャングル・ビートとも呼ばれる)はオリジナルな輝きを放っており、独自のリズム&ブルースを生み出していた。彼の曲に特徴的なコール&レスポンスやビートの反復による熱の上げ方はゴスペルに由来しているようだ。

 チャックは1926年、ボは1928年生まれ。対してマディ・ウォーターズは1913年生まれで、一世代上である。ロックンロール旋風が巻き起こる中、50年代後半にチャートを賑わせたシカゴ・ブルースマン、ジミー・リードは1925年生まれ。世代交代と言うのは単純すぎるかもしれないが、新しい感覚のブルース/リズム&ブルースが50年代半ばに現れたのである。


Chuck Berry / Blues
(MCA B0000530-02) [2003]
チャック・べリーのブルース・ナンバーを集めたコンピレーション。1955〜65年のチェス録音から選ばれた16曲には、チャールズ・ブラウン、エイモス・ミルバーンのカヴァーも含む


チャック・ベリーとともにチェス・レコードから次々とロックンロール・ヒットを送り出したボ・ディドリー

特集:伝えておきたいブルースのこと50