いま、世界の映画シーンでその動向が最も注目されている映画会社が、A24とプランBだ。ともに芸術性と商業性を兼ね備えた、賞レースをにぎわす上質なヒット作を多数輩出している 映画会社である。この二つの会社が、アカデミー賞作品賞に輝いた『ムーンライト』以来となるタッグを組んだのが『ラストブラックマン・イン・サンフランシスコ』だ。
監督であるジョー・タルボットは、2019年サンダンス映画祭で上映された本作で、監督賞と審査員特別賞を W 受賞し、華々しい長編映画デビューを果たした。タルボットと幼なじみでもある主演のジミー・フェイルズは、友情、家族、そして目まぐるしく変わっていくサンフランシスコという街への愛情を丹念に描くことに成功した。この映画は、自らが存在するコミュニティの大切さ、そして本来の自分になるために自問する一人の男の姿を描いた秀逸なパーソナル・ストーリーだ。主人公ジミーは、自分たちを取り残したまま経済発展や 都市開発によって急速に変わっていく街で、親友のモントとともに心の置きどころを探し求めている。家族と再び繋がりをもち、理想とするコミュニティを復活させようともがく彼の望みは、 いま自分が置かれている現実を見えなくさせてもいるが、こんな思いを抱くことはないだろうか? この映画で描かれている街は世界のどこか、そしてジミーの姿は、世界のどこかにいる誰かかもしれない。
多くの財産をもたなくても、かけがえのない友がいて、心の中には小さいけれど守りたい大 切なものをもっている。それだけで、人生はそう悪くないはずだ──。そんなジミーの生き方が、今の時代を生きる私たちに温かい抱擁のような余韻を残す、忘れがたい物語。“街と人をめぐる新たな傑作”。ぜひ劇場へ足を運んでほしい。
『ラストブラックマン・イン・サンフランシスコ』
10月9日(金)より新宿シネマカリテ、シネクイントほかにて全国ロードショー
配給:ファントム・フィルム