2025.4.24

【LIVE REPORT】ブルースと共に バンドマンとして前進するエリック・クラプトン ~2025年来日公演 日本武道館

◆新鮮なアレンジ

心地よい時間だった。
そこにいたのは、ギターの神様エリック・クラプトンとそのバンドではなく、“エリック・クラプトン・バンド”。武道館にブルース・バンドを観に来たような錯覚に陥った瞬間もあり、このバンドをどこかのライヴハウスでわいわいと楽しみたくもなった。それほど気持ちの上で近さを感じることができたのだ。
客電が落ちるとまもなく大歓声の中、メンバーと共に上手からゆっくりとエリック・クラプトンがステージへ。ストラトキャスターを手にとると1曲目は“White Room”。新たなアレンジが施されているがクリーム時代のナンバーにざわめきのような歓声があがる。

続く2曲目は軽いシャッフルで“Key To The Highway”。ピアノのクリス・ステイントンからソロを受け取ったのは、すっかりクラプトンの右腕となったドイル・ブラムホールIIだ。赤いセミアコを指でピックするブラムホールのギターがブルースの確かさを補完する。

続く“Hoochie Coochie Man”は、2人の女性コーラスがゴスペル・コーラスのように終始畳みかけてきて、男の信じた黒魔術の妖しさが増幅されるよう。この曲のグルーヴに身を委ねた時、今日はいい夜になる!と確信した。ブラムホールのスライド・ギターも過不足なくエネルギーを注ぎ込んでいく。

そして2曲のブルースから間髪入れずにクリームの“Sunshine Of Your Love”へ。メンバーもコーラスに加わっての広がりがあるファンキーなアレンジが新鮮だ。
今回ステージ上の6枚のモニターがメンバーの表情やクラプトンの指先を映し出し演出に一役買っていた。バンド編成はクラプトンを含むギター×2、オルガン、キーボード、コーラス×2とリズム隊の8名。言うまでもなくロックの歴史と共にショービジネスを生きぬいてきたツワモノぞろいだが、モニターを通じ彼ら一人ひとりを意識させることでバンドとしての一体感をさらに印象づけたと思う。

◆充実のアコースティック・セット

クラプトンがアコースティック・ギターに、ネイザン・イーストはウッド・ベースに持ち替える。ゆっくりと歌い始めたのは、チャールズ・ブラウン(ジョニー・ムーアズ・スリー・ブレイザーズ名義)がヒットさせ多くの人に愛されてきた“Drifting Blues”だ。
この広い武道館でよいのだろうかと心配になるほど音量は最小限。始まりこそ手拍子を打つ人もあったが、やがて皆じっと耳を傾けていた。
続いて“Kind Hearted Woman”へ。歌い出しからクラプトンの歌声は力強い。1世紀近く前から多くの人歌われてきた“Nobody Knows When You’re Down And Out”もすっかり彼の十八番となったナンバーだ。クリス・ステイントンのピアノに導かれるように始まり、コーラスと共にせつない人生を包み込む。特別なアレンジではないが、このさりげない力加減が今のクラプトンの充実を表しているように感じた。
それもまた永年ステージを共にした“バンド”メンバーへの信頼の上に立っているからだろう。ネイザン・イーストにヴォーカルをまかせた“Can’t Find My Way Home”も枯れたとか渋いといった印象は全くなく、むしろ豊かな時間が流れていった。

◆ブルースを楽しむ姿がそこに

後半のエレクトリック・セットは圧巻だった。ピアノ~オルガン~ブラムホールのギターとそれぞれが全力で挑むソロから、さらにイマジネーションを拡げ自らのソロにエナジーを注入するのが現在のクラプトン・スタイルのようだ。
とりわけ “Old Love”での集中力は息をのむようだった。ここにギターの神様は武道館に確かに降臨した。バンドもぐいぐいとクラプトンに引き寄せられボルテージを上げていくのが伝わってくる。
息つくことなく、おなじみ“Crossroads”もぐんぐんグルーヴしていく。多少盛り過ぎな印象もあるものの、通り一遍でないクロスロードを聞くことができただけでも来てよかったと思った。
熱気醒めやらぬままの“Little Queen Of Spades”では、ドイル・ブラムホールIIによるギター、特にブレイクからの一撃が熱かった。ロバート・ジョンスンのカヴァーであることを忘れさせるアグレッシヴなプレイにこちらも力がこもる。

正直に言えば、昔はB.B.キングらに混じりブルースを演奏するクラプトンがあまり好きではなかった。畏敬の念に押し潰されているように感じることがあったからだ。なんなら自分のオリジナルをやっている方がいいと感じたことさえあった。

でも今回は何のしがらみも感じなかった。おそらくクラプトン自身も今は少し自由になって、ブルースを自分の音楽として楽しめているのではないだろうか。
その証拠にモニターに映し出される表情と言ったら。時折メンバーと視線を交わし、少年のような笑顔を浮かべるその姿にこちらの頬もゆるむ。

◆歩を止めないバンドマンの充実を観た

ラスト・ナンバーの“Cocaine”では我慢できず立ち上がった観客が、「Cocaine!」と一緒に声を上げる。メンバーそれぞれに見せ場があり、互いの健闘を称え合うように一旦終了。
歓声の中で始まったアンコールは、ボ・ディドリーの"Before You Accuse Me" だった。手拍子とともに会場も揺れている。オリジナルは有名なボ・ディドリー・ビートではなくジミー・リード風の12小節ブルース。この決して派手ではないが中毒性のあるナンバーをクラプトンは大らかなビートで大事に歌い続けている。有名曲かどうかにかかわらず、おそらく若い時に繰り返し聴いた思い出もあるのかもしれない。この夜のライヴを完走した安心感も手伝ったのだろうが、本当にリラックスした様子が印象的だった。

1974年の初来日以来、半世紀を経て今回が24回目の来日公演だという。80歳という年齢も話題になったが、同世代で思い出すのは、今年3月に来日したメイヴィス・ステイプルズだ。彼女はクラプトンよりいくらか年上だが、今もステージに立ち続けている。そして何者にも媚びず客前に立つ姿はある種の覚悟を感じ感動的であった。

同じようにクラプトンからも、今何を歌いたいのか弾きたいのかが明確に伝わってきた。その柱にあるのが、今回もレパートリーの半分を占めたブルースであることに疑いはない。
平坦ではなかった人生も、それを認め受け容れ客前に立つなら決してマイナスにはならない。しかも今の彼には信頼をおくバンドの仲間がいる。多少のミストーンがあったとしてもさほど問題ではない。

仮に流麗なソロが弾けなくなったとしても、この人はバンドを辞めるようなことはないだろう。ブルースと共にエリック・クラプトンの旅はまだ続く。

★2025.04.21 セットリスト★
01 White Room
02 Key To The Highway
03 Hoochie Coochie Man
04 Sunshine Of Your Love
05 Drifting Blues
06 Kind Hearted Woman
07 Nobody Knows When You‘re Down And Out
08 Can’t Find My Way Home(Vo./Nathan East)
09 Tears In Heaven
10 Badge
11 Old Love
12 Wonderful Tonight
13 Crossroads
14 Little Queen Of Spades
15 Cocaine
アンコール
Before You Accuse Me

◆Member

Eric Clapton(g/vo.)
Doyle Bramhall II(g./ vo. )
Nathan East(b. /vo. )
Sonny Emory(dr. )
Chris Stainton(key.)
Tim Carmonkey.
Sharon White(vo.)
Katie Kissoon(vo.)

文:妹尾みえ 写真:土居政則 Masanori Doi
協力:株式会社ウドー音楽事務所


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<追加公演 スケジュール>
黒澤楽器店 MARTIN GUITAR Presents
ERIC CLAPTON
LIVE AT BUDOKAN 2025

日程:4月26日(土)17:00開場/18:00開演
27日(日)16:00開場/17:00開演
会場:日本武道館
チケット料金(各税込):S席 ¥25,000/A席 ¥24,000
ご購入はこちらからericclapton2025.udo.jp/

主催:J-WAVE/TOKYO FM/interfm/FMヨコハマ/BAYFM78
特別協賛:株式会社 黒澤楽器店
企画・招聘・制作:ウドー音楽事務所
お問い合わせ: ウドー音楽事務所 03-3402-5999 udo.jp

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