文/はたのじろう
写真/Masanori Naruse
協力/ビルボードライブ
2016年のライヴ・マジック以来、実に9年ぶりとなるサニー・ランドレスの来日公演が、10月18日と20日にビルボード東京でそれぞれ2ステージずつ開催された。ここでは18日の2ステージの模様をお伝えしたい。
今回の来日はソロセットと銘打たれ、サニーが一人で演奏することが事前に告知されていた。長年右腕として活動を共にするベースのデイヴ・ランスンを擁し、唯一無二のドライヴ感を生み出すトリオ編成こそが彼の真骨頂だが、果たして弾き語りでどれほどスライドによる超人的表現力を披露してくれるのかが最大の注目点だ。また近年はシンディー・キャッシュダラーとのアコースティック・セッションも多いため、サウンドの主体がアンプリファイドか否かも気になるところだ。

オープニングはお馴染みの“Blues Attack”で、以降もブルース寄りの選曲が続いた。サニーのレパートリー(特に最近の曲)には、ロック調のトリオ演奏を前提としたアレンジも多いが、一方でブルース調の曲はソロセットに馴染みやすく、今回はその強みが前面に出た構成だ。しかしギター・サウンドは、轟音系オーヴァードライブにファズを絡めた重量感のあるトリオ時と同様のトーン。そしてサニーの代名詞であるビハインド・ザ・スライドによる分散コードに加えて、ハーモニクスを駆使したトリッキーな大技小技が随所に飛び出し、差し詰めスライド凄技博覧会の様相を呈している。更にコンプレッサーを上品に効かせたクリーン・トーンで繊細なフレーズを織り交ぜるなど、実に多彩な表現で聴き手を一瞬たりとも飽きさせない。
ニューオーリンズ調の“Don’t Ask Me”では、スタジオ版でスティーヴ・コンが奏でたアコーディオン・リフをリズムをより強調したギター・リフに置き換えており、ソロセットならではの工夫にも溢れている。そして近年少し枯れたように聴こえる歌声が、却ってブルースに深みを与えており、温かみを感じさせたのも印象的だ。また「この曲は難しいんだよね、その次の曲はもっとだけど」と呟いて弾き始めた”Zydeco Shuffle”と“Next Of Kindred Spirit”はいずれもトリオでは滅多に演奏されないソロセットならではの初期レパートリーで、これが聴ける機会はとても貴重だ。

勿論クリフトン・シェニエの追想を含む自叙伝的名曲“South of I-10”は圧巻で、心が踊らされて立ち上がりたくなった。そしてアンコールはサニーが最も多くセットリストに載せてきたであろう“Back To Bayou Têche”。お馴染みのリフで始まり、曲中でも繰り返されるが、間奏では新しいパターンも組み込まれて変化し続けている名作だ。そのサニーを象徴するサウンドがサウス・ルイジアナの情景を脳裏に映し出して行く、勿論緩やかに蛇行するバイユー・テシの流れも。気付けば込み上げてくるものが抑えきれない……こんなに心を揺さぶる曲だっただろうか、とその余韻に浸った。

1ステージ目は比較的丁寧な演奏でフレーズのキレが際立っていた一方、2ステージ目はワイルドで(少しお疲れ気味だったのかも)ドライヴ感に溢れていた。いずれにしても今回はサニーの歌とギターを間近でじっくり堪能できる素晴らしい機会だった。そこで来場された方にとってはスライドの超絶技を随所に散りばめたギターの音をクリアに聴くことが出来る、ソロセットならではの経験ができたのではないかと思う。サニー、どんな形態でも良いからまた来日して凄技を見せてね!
ここからは少し踏み込んでサニーのギターについて紐解いてみたい。ソロセットと聞いて最も気になっていたのは、チューニングをどうするのかということだった。トリオ時のサニーは、数種類のチューニングを使い分け、またカポは使用しないため、曲順を工夫することで若干の回数は抑えられるが、チューニング変更に伴うギター交換が不可避である。今回はギター・テックが帯同し2本のストラトキャスターで対応していたのだが……何とそのギター・テックがトニー・デイグルだった! 先日のサム・ブロサードのインタヴューで、トニーがサニーのライヴに帯同していることは聞いていたが、まさか日本にも一緒に来ていたなんて。

また会場でご覧になった方は気付かれただろうか、メインのギターの背後でオルガンかストリングスのようなリヴァーブ音が鳴っていたことを。これは最近サニーが導入したLINE6のHXストンプで生成したシマーやアンビエントと表現されるピッチシフトを加えたリヴァーブ音だ。こうしたエフェクトによるギター以外の楽器も鳴っているような演出はソロセットではとても効果的だが、恐らくトニーの入り知恵なのだろう。トニーはサニーの作品制作において単なるエンジニア以上の欠かせない存在になっているが、ライヴ・サウンドのマネジメントも担当しているとは驚きで、とても嬉しいことだ。

ツアーにおけるサニーのサウンドの要はDemeterのTGA-1-180Dだ。これはDemeterがサニーと開発した小型アンプヘッドで、今回はステージ上手のツイン・リヴァーブのキャビネットに出力されていた(それ故にツインの電源はオフ状態)。このヘッドのおかげでサニーは安心して遠征に出られるようになったはずだ。そしてステージ下手のデラックス・リヴァーブは、前述のHXストンプが生成したキラキラ系リヴァーブ出力専用だと思われる。通常のリヴァーブはメインのギターの音に交えて出力されるが、キラキラ系リヴァーブは独立して出力した方がキレイな状態が保持され、制御も容易になるため、こうした接続形態にしているものと考えられる。参考までに想定される接続フローを添えておきます。


















