創刊30周年を記念して、本誌の前身となる『ザ・ブルース』誌(後の『ブラック・ミュージック・リヴュー』誌)、そしてブルース・インターアクションズ社(Pヴァイン・レコード)の創始者であり、現在『リアル・ブルース方丈記』を連載中の日暮泰文氏によるプレイリストをお届けします。テーマは「ブルースは何を歌ってきたのか」。創刊30周年記念号では《ブルースの歩みを知る》と題しブルースの誕生から現在までの120年を辿る特集を組みましたが、その長い歴史のなかでブルースには世相や歌い手の想いが歌い込まれてきました。人種差別から監獄暮らし、貧困、死、土曜の夜のバカ騒ぎまで、ブルースの深い歌世界をお楽しみください。

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「ブルースは何を歌ってきたのか」

ブルース&ソウルの専門誌が30周年を迎えたとはなんというめでたさ。紙の雑誌がどんどん消えてゆく中でまさに奇跡といってもよい。30年前、ブルースやソウルも扱う雑誌として都市を目指し急激に成長していった月刊誌『ブラック・ミュージック・リヴュー』には入りきらないディープなブルースやソウルを扱う増刊として(今はなき)ブルース・インターアクションズ社から重厚に出た。親誌はその後、紙の世界から足を洗ったのに粘り、頑張り30年。最大の功労者は、黒人文学など研究しつつこの音楽世界から抜け出せなくなった濱田廣也現編集長だ。編集部によるこれまでのプレイリストからそのテイストの幅広さが伺われるのでは。

その濱田を採用する側だったぼくのプレイリスト、ウムいったいブルースはどこから湧き出、何を契機として歌われるのか、などと考えた末の選曲だ。テーマをいくつか出し、思いつくブルースを上げてみた。全18曲、30年前のクールなブルース・ヒットをあたまとして、順番に以下のようなテーマに各1-2曲割り当てている。[ブルースとは]①[ライフ]③[レイシズム]④⑤[フードゥ]⑥[仕事]⑦[金]⑧⑨[サタデイナイト]⑩⑪[後朝]⑫[監獄]⑬⑭[死]⑮(オリジナルVee-Jay盤のスペルは”Judgment Day”)⑯[マッドネス]⑰[明日]⑱。ブルースのテーマはむろん山ほどあり、またここで取り上げた曲も、一般的にはブルースのカテゴリーに入っていないものもあるけれど、ブルースの存在なくして出てこなかった音楽であることは間違いない。ディープ・ブルー・シーよりも深いブルースへのトリップのお供にでもなれば、と願います。

日暮泰文
1948年東京・新宿生まれ。慶応義塾大卒。中高生のときブラック・ミュージックに心酔し、67年頃から日本でのブルースへの関心を高めるために音楽誌への寄稿などを始める。鈴木啓志らとブルース愛好会を結成し、そのミニコミ会報誌を書店ルートに乗せる『ザ・ブルース』(後の『ブラック・ミュージック・リヴュー』とその増刊号として始まった『ブルース&ソウル・レコーズ』の前身)を発行、そこから髙地明とともにブルース・インターアクションズ社を興し、75年には洋楽インディペンデント・レーベル「Pヴァイン」を設立した。著書に『ノイズ混じりのアメリカ—ブルース心の旅』(講談社文庫)、『のめりこみ音楽起業』(同友館)、『RL—ロバート・ジョンスンを読む』(ブルース・インターアクションズ)、訳書に『ブルースと話し込む』(ポール・オリヴァー著/土曜社)、髙地明との共編著『ニッポン人のブルース受容史』(Pヴァイン)などがある。Pヴァイン勇退後もクリスタル・トーマスやスタン・モズリーらのアルバム制作企画に関わり、2024年にはPヴァイン内に「Boss Card」レーベルを設け45回転10インチ・アナログ盤で作品を送り出す《ブルース・ヘリティジ・シリーズ》をスタートさせるなど現在もブルースの普及に尽力している。

【お知らせ】
日暮泰文さんが、2024年5月30日、享年75で逝去されました。心よりご冥福をお祈り申し上げます。

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