1988年東京の下町生まれ。パンク・バンドを渡り歩いた崎原ショータの上に数年前、突然ブルースは降ってきた。
まだまだ粗削りだが理屈ではなく、体当たりでブルースに向かっていっているところがいい。
W.C.カラス、ズクナシらの未知数の魅力を発掘してきたナカムラ(モアリズム)がプロデュースを務め、2024年秋、Pヴァインからデビューする。
[取材・文]妹尾みえ
◆ブルースは嫌いだった
――ブルースを歌い始めて6年だそうですね。
「以前はザ・ビンビンズといったパンク・バンドでドラムを叩いていました。でも長男が産まれ、もう好き勝手にバンドやるなんて無理だなと苦しんでたんですよ。そんな時に偶然YouTubeでジュニア・ウェルズとバディ・ガイのライヴ映像を見たんです。“My Little Girl”で弾きまくるバディのギターのネックをジュニアがつかんで止めるパフォーマンスがあるじゃないですか。なんだ、これ!パンクよりパンクだなって。それで『シカゴ・ブルース』というDVDを買いました。そこが始まりですね。なんかその時のもうダメだっていう気持ちを救ってくれた思いがしたんです」
――70年代初頭、永井ホトケ隆さんたちも衝撃を受けたという映像ですね。時代を超えて影響を与えているのが面白い。そこでブルースを始めた?
「いや、家でハーモニカを吹いたり、仕事のストレス発散に友だちとちょっと演奏するくらいでした。次に転機になったのが甲本ヒロトさんと内田勘太郎さんによる「ブギ連」(2019年)。英語ではちょっと歌いづらいと思っていたこともあり、日本語でブルースを歌うのが新鮮でした。実は憂歌団のことも雑誌『ブルース&ソウル・レコーズ』もよく知らなくて、そこからバックナンバーを買ったりして掘り下げていくようになりました」
――それまでブルースにはどんな印象を持っていましたか。
「大キライでした(笑)。パンクに比べたらトロいし、凝り固まった印象があって。どうしてもエリック・クラプトンのイメージが強いですね。ビートルズやローリング・ストーンズは好きだったんですが」
――今もバーボン片手にといったイメージなのかな・・・。特に好きなブルースマンは誰ですか?
「フレッド・マクダウェルやブッカ・ホワイト、サン・ハウスはもちろんですが、ファリー・ルイスにすごく影響を受けました。YouTubeで観て手業を含め、とにかくすごいなと」
――ファリー・ルイス! レコードだと素朴な印象が強いんですが、今は動画に残る人たちのインパクトが大きいのかもしれませんね。
「ぐわんぐわん、ガツンと来る感じをやりたいです。日本の弾き語りではAZUMIさん、ROIKIさんにあこがれます」
――ショータさん自身、ブルースのどこに共鳴していると感じていますか。
「パンクもブルースも生活に根ざしていますけど、パンクはストレートに怒りをぶつけている感じ。それに対しブルースは一旦自分の中に飲み込んで、怒りや辛さも込みで楽しもう!みたいな印象です。そこが今の自分の気持ちにリンクしているのかもしれません。平日は仕事して週末はバレルハウスで歌うような暮らしぶりにも共感を覚えます」
◆身の丈に合ったブルースを歌え
――今回のプロデューサー、ナカムラさんとの出会いは?
「2021年です。ナカムラさんが神保町にあるバーの喫茶部でマスターをすると知って、入り浸ろうと決めました。モアリズムは友だちに誘われて見たことがあり、パンクじゃないけどカッコいいなと感じて時々チェックしてたんです。当時ブルースの演奏にも行き詰まりを感じていたし、2人目も産まれるしで、何かつながりができればと今思えば藁にもすがるような気持ちでした。何度か通い身の上話をするうちに“じゃあ一人でギター弾いて歌えばいいじゃん”と言われたのが、今のスタイルの始まりです。ギターを借りてスリー・コードやオープン・チューニングを教わって、弾いてはダメ出しされての繰り返しでした。中でも口酸っぱく言われたのはリズムです」
――ギターありきではなく選択肢の一つだった。同時にオリジナルも作り始めたんでしょうか。
「最初はブルースっぽい感じにあこがれて、訳詞の本なども読み漁り歌詞にニワトリやスパイダーを入れたりしていました(笑)。でもナカムラさんに“身の丈に合わない”と言われて子どものことや生活を歌うようになりました」
――その結果<寝かせてベイビー>のようなショータさんにしか歌えない曲が生まれたというわけですね。日本語の作詞や歌で参考にしている人はいますか。
「あえて言うなら甲本ヒロトさんや忌野清志郎さんですね。もともとヴォーカルは全然ダメでした。ブルースっぽく渋くカッコよく歌おうとしたら、またナカムラさんからダメ出しを喰らって(笑)。今回、スライド・ギターのアレンジで収録した<リンダリンダ>は、僕にとってチャレンジでした」
――ブルーハーツやRCサクセションはショータさんの世代にとっても、大きな存在なんですね。
「活動を続けるヒロトさんはもちろんですが、RCサクセションもライヴこそ体験していませんが伝説的な存在として耳にしていますから。10代のころ好きだったHi-STANDARDや GOING STEADY、銀杏BOYSを介して知ったという部分もあります。最近パンクやってた友だちも日本語ブルースにハマってたり、村八分やキャンド・ヒートが好きだと話してたりするんですよ」
――なるほど脈々と受け継がれている。確かにブルース・バンドと名乗っていない界隈にむしろスピリットを感じることはあります。今はライヴでも手応えを感じていますか。
「本格的に演奏したのは夢野カブさんのO.A.です。2023年2月ですね。ナカムラさんから40分位やるように言われ、やべぇ!と曲も作り始めました。だから本当にまだ十何回しか歌ってなくて」
――では1年足らず! 強引というか愛あるスパルタでというのか、レコーディングもそんな感じで決まったのでしょうか。
「急に“やるぞ!”と言われて今年初め、asian gothicのスタジオで録りました。僕のリズムを大切にしようと言われ、ギターはピグノーズのアンプにファズをかまし、歌はヴィンテージのセラミック・マイクを使いギターアンプから出たそのままの音を拾っています。あとは足踏み板を踏む、僕のフットストンプとその3点だけを録り、曲によってはナカムラさんのドラムやベースをダビングしました。曲によっては、エンジニアの速水直樹さんが“これでいいですか”と苦笑いされてました(笑)その録音が、たまたまPヴァインに気に入ってもらえたという流れです」
◆パンク、ヒップホップと僕なりのブルース
――収録ナンバーについていくつか。<崎原ショータのテーマ>は “Shake Your Money Maker”風。
「パンクの伝統 “○○のテーマ”スタイルで作ってみました。エレキ・ギターでスライドとくればハウンド・ドッグ・テイラーみたいにやりたかった。ラモーンズを聴いてバンドできるなと思えたのと同じように、“Shake Your Money Maker”は何かやれそうな気持ちを刺激してくれたんです」
――70sパンク・バンド、ザ・レヴィロスの“Yeah Yeah”はショータさんらしいカヴァーです。
「弾き語りでパンクをやりたいと考えたときに、この曲ってブルース進行だと気づいて。70sパンクのポップでちょっとフザけた感じが好きなんです」
―― 珍しいカヴァーでは日本のバンド、デルタ兄弟の“Diamond Cat Your Meat” 。これはプロデューサーの提案ですか?
「いや偶然です。モアリズムと縁があるバンドだなんて全然知りませんでした。日本のブルース・バンドを探していたときに名前にピンときたのがきっかけです。結果的にデルタ・ブルースは全く関係なかったんですが、さっきの70sパンクに通じる馬鹿馬鹿しさも含めてフィットしました。“これがブルースだと思いますよ”と言ったらナカムラさんには苦笑されましたけど」
――ブギの中にあって<ダラダラ>はスロー。着想はどこから?
「ヒップホップの言葉遊びや、彼らがブルースをサンプリングする感じをヒントにしました。<トコトントコトン>もフレッド・マクダウェルの呪文みたいな感じをヒップホップでやったらカッコいいかなとの発想です」
――ヒップホップはこれからも自然にミクスチャーされていくでしょうね。ラストは“The Sky Is Crying”で締めていますね。
「やっぱり1曲ぐらいザ・ブルース!という曲を入れた方がいいんじゃないかと提案されたんですが、どうしても他の人と比較されるじゃないですか。歌うのもめちゃくちゃ難しいし大変でした」
―――これからどんな活動をしていきたいですか。
「ガレージ・パンクの界隈でもできたら面白いですね。ボ・ディドリーなんかを好きな人も多いし、この前もドレッドの人に最高のブルースだぜって声をかけてもらいました。今度関西にも行きます!楽しみです」
崎原ショータ『PUNK & BLUES』
(Pヴァイン PCD-25414)¥2,750
2024.09.04 発売
1. 崎原ショータのテーマ
2. ダラダラ
3. 寝かせてベイビー
4. When The Saints Go Marching In
5. Diamond Cat Your Meat
6. リンダリンダ (THE BLUE HEARTS cover)
7. トコトントコトン
8. Yeah Yeah (The Revillos cover)
9. The Sky Is Crying
ご購入はこちらから anywherestore.p-vine.jp/products/pcd-25414
【ライブ情報】
・【レコ発】9/13(金)高円寺JIROKICHI (w/モアリズム/W.C.カラス/スクナシ)
・9/21(土)吉祥寺曼荼羅
・10/11(金)愛知県・名古屋某所
・10/12(土)広島県・福山POLE POLE
・10/13(日)大阪府・十三RAINCOAT
・10/14(月)兵庫県・神戸PUB CHELSEA
・11/9(土)or11/10(日)高円寺ミュージックストリート
・12/8(日)高円寺MOON STOMP 【ヒッコリーナイトvol.3】