ボビー・ラッシュとケニー・ウェイン・シェパードのコラボレーション・アルバム『Young Fashioned Ways』が話題を呼んでいる。
44歳の年齢差がある2人の共演だが、ブルースへの想いは同じ。本誌第183号で彼らがアルバムについてじっくり語るインタヴューを行っているが、ここでは未掲載パートをご紹介する。両方併せてお楽しみいただきたい。
文/山﨑智之
協力/株式会社オフィス・プラスナイン
──アルバムでボビーの既発曲“Uncle Esau”、“G String”、“40 Acres (How Long)”をリメイクしたのは何故でしょうか?
ケニー:実は俺はそれらの曲を知らなかったんだ。だからボビーがスタジオで歌っているのを聴いて、新曲のつもりで曲を書いた。まったくオリジナルと異なったものになったけど、それが良い結果を生んだと思う。もしオリジナルを知っていたら、それに似通ったものになっていただろう。“G String”がすごくファンキーで驚いたよ。新しいヴァージョンはストレートな12小節ブルースなんだ。スタジオの片隅に置いてあった誰かの12弦アコースティックを俺が弾いて、それにボビーがハープを乗せて、歌い始めた。あちこちで歌詞も異なるし新しいアプローチで、オリジナルを知っている人もきっと楽しめるよ。
──『Young Fashioned Ways』はアーティスティックな面で成功を収めていますが、今後もコラボレーションは続くでしょうか?
ケニー:ボビーが「やる」と言ってくれさえすれば、俺はアルバムもツアーもやりたいと思っているよ。何とかスケジュールを調整するつもりだ。
ボビー:音楽に導かれるままに進んでいくよ。ケニーと共演するのは楽しいし、ファンが私たちの音楽を楽しんでくれたら、また一緒にやりたいね。
──2人のウェブサイトでツアー日程を見ると3月下旬から4月上旬までケニーは北米“エクスペリエンス・ヘンドリックス”ツアーに参加、その後4月下旬から6月上旬までケニーとボビーの北米・欧州・北米ツアーが予定されています。長期にわたり、かなりハードなスケジュールですが、どのように体調やスタミナを維持するのですか?
ボビー:私にとって決して難しいことではないよ。ケニーを見ているだけで「仕事しなきゃ!」と気合いが入るんだ。自分のリハーサルをして、バンドのメンバー全員と打ち合わせをして、私とも全曲について入念な話し合いをする。彼は本当のワーカホリックだな。でも私だって置いていかれるわけにはいかない。必死に食らいついていくよ。
ケニー:いや、ボビーのミドル・ネームこそ“スタミナ”だな。ブルース・フェスティヴァルで初めて一緒にやったとき、唖然としたよ。ステージ上で跳びはねて、地上にいる時間の方が短かったぐらいだ。
ボビー:2人ともプレイすることを楽しんでいるし、お互いの火に燃料を注いでいるんだ。ケニーだってデビューから30年、良いことばかりがあったわけではない。彼は毎日リハーサルをして、ミーティングをして、SNSを更新して……とにかくハードに働いているし、困難と直面しているし、外側から見るよりはるかに苦労しているのが判る。それがブルースじゃないなら、何がブルースだって言うんだい?
──北米ツアーはどのような構成になりますか?
ケニー:まだいろんなアイディアを練っているところだし、単独のライヴとフェスティヴァルでは異なった構成になるけど、今考えているのはまず俺たち2人が最小限のバンドを従えてステージに上がって『Young Fashioned Ways』からの曲を中心にプレイする。それから少し休憩を挟んで、ケニー・ウェイン・シェパード・バンドとしてのセットをやる。そしてアンコールに再びボビーが登場する……というショーをイメージしているよ。フェスティヴァルでは基本的に俺のバンドでショーをやって、中盤でボビーがゲスト出演する感じになると思う。とにかくリハーサルをして、いろいろ調整していくつもりだ。
──ボビー単独のショーのように女性ダンサーをフィーチュアしたりはしますか?
ボビー:いや、それはないだろうな。ダンサーはケニーと私、それからお客さん達で十分だよ(笑)。これまで私のショーを見たことがある人にとってお私にとっても、新しい経験をしてもらいたいんだ。
──2024年の“バックローズ・ブルース・フェスティヴァル”にはエリック・ジョンスンも出演しましたが、ボビーは彼のライヴを見ましたか?
ボビー:自分の出番で忙しくて、見れなかったんだ。でもエリックの曲はいくつか知っているし、ステージでジャムをしたこともある。凄いギタリストだね。一緒にやってみたら?……面白い、新しいものが生まれるかもね。考えてみるよ。
ケニー:日本ではエリックがすごい人気なんだよね? 前回日本でプレイしたとき(1998年4月)テクニカル・ギタリストがポピュラーだと言われたんだ。うーん、俺ももっと速弾きを練習するべきかな?と思ったんだ(苦笑)。どうしてこれほど長いあいだ日本からご無沙汰なのか判らないんだ。正しいオファーがあれば、すぐにでも戻りたいんだけどね。
ボビー:私は数回日本でプレイしてきたけど、お客さんはすごく盛り上がってくれるし、関係者やプロモーターの熱意も感じた。日本の人々は世界で最も礼儀正しいし、『Young Fashioned Ways』に伴うツアーで行けたら最高だ。
──ケニーの次のプロジェクトは何でしょうか?『Dirt On My Diamonds』シリーズの第3弾などは考えていますか?
ケニー:いや、『Dirt On My Diamonds』は作って楽しかったし、良いアルバムだと思うけど、やりたいことはやった感じかな。次のアルバムは、ファースト『Leadbetter Heights』の30周年記念リメイクなんだ。数年前に『Trouble Is...』の25周年アニヴァーサリー・アルバム『Trouble Is... 25』でやったように、当時のアルバムを現在の俺のミュージシャンシップでやってみたらどうなるかのチャレンジだよ。かなりアレンジも異なっているし、オリジナルを知っているファンも初めて聴く人も楽しめるだろう。ノア・ハントはオリジナルでは歌っていないけど、ライヴでずっと歌ってきたし、曲を彼のものにしているよ。アルバムは2026年の初めに出して、全曲をプレイするツアーをやろうと話している。『Leadbetter Heights』は今でも人気があるアルバムだし、完全再現をするのが楽しみだよ。
──ボビーは“Chicken Heads”、“Hen Pecked”などニワトリにちなんだ曲がありますが、ニワトリに対する特別な思い入れがあるのですか?
ボビー:ははは、ニワトリを食べるのは好きだけど、思い入れはないなあ。“Chicken Heads”の歌詞はニワトリと全然関係ないんだ。「父親が死ぬ前に言っていた。女の子に心奪われるのは良いけど、頭を失ってはいけない」というもので、だから“女・頭”で“Chick Head”というタイトルにしたんだけど、レコード会社からNGを食らったんだ。それで“chick=女の子”でなく“chicken=ニワトリ”にしたらOKが出た。
──ブルース博物館やブルース・トレイルのように、21世紀においてブルースは学問や観光の対象となっている印象も受けます。そんな現象についてどう考えますか?
ケニー:ミシシッピにはブルース・ハイウェイもあるし、ブルースがただ娯楽というだけでなく文化として認識されているのは良いことだと思う。ブルースの歴史やアメリカが生んだアート・フォームに関心を持ってくれるのは素晴らしいよ。ぜひ日本の人も、ブルースが生まれた土地を見に来てほしいね。
──新時代のブルース・アーティストとして注目されるクリストーン“キングフィッシュ”イングラムは2人とも共演したことがありますが、彼をどのように評価していますか?
ケニー:「キングフィッシュはブルースの未来か?」とよく訊かれるけど、彼はブルースの未来そのものではないにしても、ブルースの未来において重要な位置を占めることになるだろうね。ブルースの根源であるミシシッピ・デルタで生まれ育ったこともあるし、素晴らしいギターの腕前だ。初めて会ったのはどこかのフェスだったけど、バックステージで「最高だね!」と呼び止めずにいられなかった。彼は俺のことを知っていたらしく、ビックリしていたよ(笑)。彼とは春の“エクスペリエンス・ヘンドリックス”北米ツアーでも一緒だし、ジャムを出来たら最高だね。
ボビー:ケニーや私のように、キングフィッシュも若い頃にスタートを切ったし、90歳を超えてもブルースを続けて欲しい。
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BOBBY RUSH / KENNY WAYNE SHEPHERD
Young Fashioned Ways
orcd.co/brkws-yfw
CD (Ram/Deep Rush/Thirty Tigers 15638CD) 2025
LP (Ram/Deep Rush/Thirty Tigers 15539LP) 2025
1. Who Was That
2. 40 Acres (How Long)
3. Hey Baby (What Are We Gonna Do)
4. Uncle Esau
5. Make Love To You
6. Long Way From Home
7. G String
8. You So Fine
9. Young Ways
10. What She Said