ブルース&ソウル・レコーズ

ブギ連LIVE「第2回ブギる心」ライヴ・リポート

文/濱田廣也(ブルース&ソウル・レコーズ)

「ブルースにアウトはないでしょ」
ステージ上で内田勘太郎はこう言った。
それは、甲本ヒロトがハーモニカのキーを間違えて音を外したことを観客に伝えた後の言葉だ。
前もって用意されていたセットリストの曲順を内田が急に変更したために、甲本がハーモニカを取り違えて起きたハプニング。それによって発せられたこの一言からブギ連の醍醐味が見えてくる。

ギターの内田勘太郎と歌/ハーモニカの甲本ヒロトによるブルース・ユニット、ブギ連が5年ぶりに再始動した。
セカンド・アルバム『懲役二秒』の発売が10月2日。それから10日も経たないうちに、ライヴ・ツアー「第2回ブギる心」が始まり、上記のやり取りはその初日(10月11日)、東京キネマ倶楽部のステージでのことだ。
「ブルースにアウトはない」という言葉は、ブルースという音楽形式を知っている人には矛盾した物言いにも聞こえる。
ブルースは「3つのコード(トニック、ドミナント、サブドミナント)」が「一定の法則で進行」し「12小節をワンコーラス」とする、また「ブルーノート音階」が使用される、といったように音楽的特徴を定義しやすいものである。つまり、こうした法則や形式に従っていれば「ブルース」といえるものが出来上がってしまう。
しかし言うまでもなく形だけ整えたところで、それが聴き手の心に深く刺さるブルースになるわけではない。

内田が言う「ブルースにアウトはない」とは、ハーモニカのキーが曲のキーと違ったとしても、二人の間にブルースを感じる確かなフィーリングが満ちていれば大きな問題ではない、ということであろうし、とくに一発勝負のライヴという場、偶発的な音でさえも、その瞬間の昂揚や興奮の一部となる場であれば、なおさらだ。
全編を通じて内田のギターは「アウト」を恐れない自由奔放な演奏を轟かせた。激しくコードをかき鳴らし、スライド・バーを上下させて、「アヴァンギャルド」や「アンビエント」と形容したくなる音空間を生み出す場面もあり、まさに圧巻であった。大音量で頭を揺さぶったかと思えば、やさしく撫でるように弦をつまびく。ライヴならではの、長尺なインプロヴィゼーションもあり、そのダイナミズムに圧倒されたのは観客だけでなく、ステージで隣にいた甲本も同じであった。たびたび「すげーな」と興奮気味に観客に話しかけ、尊敬する先輩の演奏にしびれていた。2019年のライヴでも甲本は同じように緊張と興奮と歓喜を抱いてステージにいたことを思い出す。それっ!と攻める内田に対して、うわっ!と仰け反りながら受けとめる甲本といった図も見えたが、眉間にしわを寄せた勝負ではなく、そこにはブルースの畳の上で汗水流し全力でとっくみあって笑い合う二人がいた。

ステージはファースト・アルバム『ブギ連』収録曲や、ここで初めてお披露目する曲も含めて、たっぷりと1時間半に及んだ。
内田との二人での演奏はいつもとは違う緊張感があると話していたように、早くも序盤の〈やっとられん〉の後、甲本は「疲れる」と笑顔で話したが、むろん最後までその歌声とハーモニカは内田のギターとともに観客を惹きつけてやまなかった。サニー・ボーイ・ウィリアムスン(二世)得意のフレーズが顔を覗かせたり、ハンド・ビブラートで表情をつけるハーモニカのテクニックは往年のブルースマンたちを彷彿させるのに十分であった。
アルバムとは印象ががらりと変わった曲もあった。〈畑の鯛〉はそのシュールな歌詞でアルバム『懲役二秒』の中でもとりわけ異彩を放つ曲だが、ライヴでは鯛が土から生えてくる様子をあらわした甲本の手振りによって、ユーモラスな雰囲気が溢れた。観客からも笑いが起こり、これも視覚的効果が重要なライヴならではの面白さだ。

個人的なハイライトは、ステージ終盤で演奏された〈49号線のブルース(スリーピーとハミー)〉だ。内田がかつて共演したスリーピー・ジョン・エスティスとハミー・ニクスン、二人のブルースマンとの思い出が生んだこの曲は、ブルースという音楽への二人の敬意が溢れた一曲だ。スリーピーとハミーと行動を共にした内田に対し、二人のステージを生で観ることができなかった甲本は、内田をうらやましく思いながら、音源や写真、伝聞などからスリーピーとハミーの存在を受け止めて思いを歌に乗せる。実際に会えた人とそうでない人、会えたから感じられたこと、会えなかったからこそ抱く思い、「本物のブルースマン」との距離の違いがこの曲の奥行きを深めている。
ステージでは甲本のハーモニカがたっぷりとフィーチャーされ、スリーピーとハミーが日本のファンに届けてくれた本物のブルースが、半世紀近く経った現在にもしっかり日本に根付いていることを強く感じさせた。当日のステージ上の二人の椅子の配置は、内田の記憶にあるスリーピーとハミーの椅子の距離を再現していると甲本は語り、本物のブルースマンに対する二人の深い敬愛がそこからも感じられた。その想いに胸が熱くなる。

ブギ連のライヴ・ツアー「第2回ブギる心」は10月19日の福岡公演で幕を下ろした。
私が観た初日のステージとはまた違った「アウト」な瞬間が他の公演でも起きたかもしれないが、誰もそれを「アウト」だとは思わなかったのではないだろうか。
それこそブルースの枠をはみ出しながらブルースであり続ける、ブギ連なのだから。

写真 柴田恵理
協力 ソニー・ミュージックレーベルズ

www.sonymusic.co.jp/artist/boogie-ren/