2022.6.24

【SPECIAL INTERVIEW】ファンタスティック・ネグリート 本誌未公開インタヴュー

アルバムが3作連続でグラミー賞コンテンポラリー・ブルース部門を獲得、独自の世界観を追求し続けるファンタスティック・ネグリートがニュー・アルバム『ホワイト・ジーザス・ブラック・プロブレムズ』を発表した。1759年、自らの先祖が直面した数奇な運命を題材としたコンセプト作品で、アルバム全曲を映像作品化するという試みも行われている。
本誌が行ったインタヴュー記事はNo.166に掲載されているが、ここでは未掲載パートをご紹介しよう。

[取材・文]山﨑智之 [取材協力]ビッグ・ナッシング/ウルトラ・ヴァイヴ
[写真撮影]井村猛

――『ホワイト・ジーザス・ブラック・プロブレムズ』を作ることになったきっかけを教えて下さい。

ファンタスティック・ネグリート(以下FN)「あるとき、『あなたの親戚です』というメールをもらったんだ。最初は頭のいかれたファンだと思ったけど、いろんな家系図が載っているancestry.comというサイトで検索してみたら、本当に親戚らしいことが判った。それだけでなく、自分の父親が話していた素性がすべて偽りだということも判明したんだよ。父親 は1905年に生まれて、俺が生まれたとき63歳で、母は33歳年下の30歳だった。親子ほどの年齢差があったんだ。実は父には別の家族もあった。さらに我が家のディフレッパレズ(Dphrepaulezz)という名字は、父がでっち上げたものだった。奴隷制度が廃止された次の世代で、黒人の地位が低かったから大仰な名前で、ナメられないようにしたんだ。そんなことを調べるうちに、これはアルバムの題材になるぞと考えた。それでさらに深く掘り下げていったんだ」

―― 去年(2021年)単発でシングル“Rolling Through California”を発表しましたが、今回のアルバムとの繋がりはあるでしょうか?

FN「いや、まったくの別物だよ。あの曲は2020年のカリフォルニア森林火災に衝撃を受けて書いたんだ。『ホワイト・ジーザス・ブラック・プロブレムズ』の世界観が生まれる以前のものだし、その前に作るつもりだったデュエット・アルバムを念頭に置いた曲だった。カントリー歌手のミコ・マークスと共演したんだ。あの時期はファンタスティック・ネグリートとしての新しい活動を模索している時期だった。いろんなミュージシャンからインスピレーションを受けることで新しい可能性の扉を開こうとしていたんだ。もしデュエット・アルバムが実現していたら、それがファンタスティック・ネグリートとしての最後の作品になっていたかも知れない。幸いこのアルバムのインスピレーションが降りてきたけどね。以前にも音楽から5年間離れていた時期があったんだ。その時期、インスピレーションを得ることが出来なかった。そんな状態でレコードを作ることは不可能だろ?」

――『ホワイト・ジーザス・ブラック・プロブレムズ』の映像ヴァージョンには銀ラメのコスチュームに身を包んだキャラクターが登場しますが、彼は何を象徴しているのでしょうか?

FN「ベイ・エリアには興味深い歴史と文化があるんだ。スライ&ザ・ファミリー・ストーンやサンタナ、グレイトフル・デッド、ジェファーソン・エアプレイン、メタリカ、グリーン・デイ、デジタル・アンダーグラウンド、アン・ヴォーグ、デッド・ケネディーズ……いずれも個性的な、オリジナルな音楽をやっているアーティストだ。それと同じく、音楽はやっていないけど、全身銀色の衣装を着て、同じ銀色の車に乗っている男がいて、たまに見かけるんだ。ベイ・エリアそのものを集約したような人間だと思って、『俺の映画に出て欲しい』と頼んでみた。 彼の存在はベイ・エリアの“希望”を象徴している。俺の先祖が“希望”の象徴であるのと同じようにね。俺は彼を“ジーニー”と呼んでいる。希望の魔神なんだ。アートは希望と共通するものがあると、俺は考えている。ベイ・エリアでは生存する闘争の中から、豊かなアートが生まれてきた。黒人は苛酷な環境の中でソウル、ファンク、ブルース、ヒップホップ、ジャズなどを生んできた。アートとは希望なんだ」

―― 映像の最初でキモノを着ている2人の女の子がいるのは?

FN「人間は歴史を通じて、さまざまな壁を作ってきた。人種や文化、宗教などね。ゲットーで黒人の女の子がキモノを着ているのは、そんな壁が崩されることを象徴しているんだ。きっと子供たちが正しい選択をしてくれる、そんな希望を込めているんだよ」

―― クリス・コーネルと一緒にツアーした思い出を教えて下さい。彼はどんな人物でしたか?

FN「クリスとのツアーは、人生が一変するような経験だった。オープニング・アクトだから、俺のことを知らない、着席しているお客さんの前でライヴをやるというのが新鮮だった。クリスは暖かく、脆く、純粋な人だった。素晴らしいシンガーでアーティストであることはもちろんだけど、大物ロック・スターらしく振る舞うことはなかったよ。楽屋でも『よお!すべて順調?』とか、気にかけてくれたよ。お互いの家族の話をしたりした。彼とは3回一緒にツアーしたんだ。彼のヨーロッパと北米ツアー、それからテンプル・オブ・ザ・ドッグの北米ツアーね(2016年)。決して長い年数ではないけど、彼と友人になれて幸せだし、光栄に感じているよ」

―― クリスはあなたの音楽のファンだったのですか?

FN「“ファン”という言葉は使いたくないな。彼はYouTubeで発見した俺の音楽を心で感じて、支持してくれた。俺にロバート・プラントを紹介してくれたのもクリスだった。イギリスのストックポートかな、30人ぐらいしか入っていないライヴ会場に来てくれたんだ。たくさんの人々と音楽を通して繋がる橋渡しをしてくれたことを彼に感謝しているし、いなくなって寂しいよ」(註:クリス・コーネルは2017年5月にツアー先のデトロイトのホテルで逝去。享年52。自死とされている)


『ホワイト・ジーザス・ブラック・プロブレムズ』ヴィジュアル・アルバム

ファンタスティック・ネグリート公式サイト
www.fantasticnegrito.com/


ファンタスティック・ネグリート『ホワイト・ジーザス・ブラック・プロブレムズ』


品番:FNWJBPJ[CD/国内流通仕様] 定価:¥2,500+税
※世界同時発売、解説付
発売元:ビッグ・ナッシング/ウルトラ・ヴァイヴ

1.Venomous Dogma
2.Highest Bidder
3.Mayor Of Wasteland
4.They Go Low
5.Nibbadip
6.Oh Betty
7.You Don't Belong Here
8.Man With No Name
9.You Better Have A Gun
10.Trudoo
11.In My Head
12.Register Of Free Negroes
13.Virginia Soil

ファンタスティック・ネグリートの新作は、過去と現在が交錯しながら高めあう旅路の記録だ。1759年の黒人奴隷と白人女性のラヴ・ストーリーは一篇の寓話のようである一方で、〈ハイエスト・ビッダー〉に代表されるように資本主義やレイシズムといったコンテンポラリーな題材に斬り込んでいく。また、本作はブルースやソウル、ゴスペルなどブラック・ルーツ・ミュージックの集大成であるのと同時に、さまざまなスタイルの遺伝子を組み換え、モダンな再解釈を加えて唯一無二のものにしている。そんな新旧のクロスオーヴァーはアルバム全編に緊張感をもたらしているが、それゆえにラスト〈ヴァージニア・ソイル〉の“freedom will come”と繰り返すコーラスは聴く者をホッと安堵させるカタルシスを伴うものだ。

さらに本作は全曲をヴィジュアル化した映像作品も作られており、ネグリート自らも一部の楽曲で監督を務めている。彼の抱くアルバムのヴィジョンが視覚化されたことで、そのメッセージがより明確になっており、制作コストこそあまりかけていなくとも、登場するさまざまなキャラクターがイマジネーションをかき立てずにいない。

ブラック・ヘリテージとプリンス、ファンカデリック、サン・ラが化学反応を起こしたハイブリッド性、そして他者を寄せ付けない無二のアイデンティティ。そんな矛盾を両立させるマジックを、本作は持ち備えている。(山崎)


【公演情報】

東京 10月6日(木)LIQUIDROOM
開場18:00 / 開演19:00 スタンディング前売¥7,000 税込み(ドリンク代別途必要)
ぴあ(P:217-676)、e+(プレ: 6/13-6/15)、ローソン(L:70190)
☎問い合わせ先03-3444-6751(SMASH)

大阪 10月7日(金)SHANGRI-LA
開場18:00 / 開演19:00 スタンディング前売¥7,000 税込み(ドリンク代別途必要)
ぴあ(P:218-043)、e+(プレ:6/13-6/15)、ローソン(L:54483)
☎問い合わせ先06-6535-5569 (SMASH WEST)


『ブルース&ソウル・レコーズ』No.166
インタヴュー本編はこちらで掲載しています

特集 映画『エルヴィス』を観る

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