2023.11.10

【LIVE REPORT】ファンタスティック・ネグリート&マサ小浜 デュオ・ライヴ・リポート[2023年10月11日@メビウス]

ファンタスティック・ネグリート&マサ小浜
デュオ・ライヴ・リポート
[2023年10月11日@メビウス]

文/佐藤英輔 Photo by TOMO

2017、2019、2021年と3度も米グラミーの最優秀コンテンポラリー・ブルース・アルバム部門のウィナーとなっているファンタスティック・ネグリートことエグザヴィエ・ディーフレッパレーズがギタリストのマサ小浜とデュオのギグを行ったので、報告する。2023年10月11日、会場は四谷3丁目にあるメビウス。ここで翌日も行われたが、とうぜん場内は満場だった。

まず出てきたエグザヴィエの風体に大きく頷く。もみあげが立派になり、その帽子を被った姿は往年のスライ・ストーンのようではないか。けっこう彼は髪型もよく変えたりするが、見た目が変わる人物に悪い人はいない。

ショウにつけられた表題は、《Me & The Japanese Guy》。実はこれ、エグザヴィエがかつて渡米していたマサ小浜と一緒にLAでライヴをした際の名称だそう。日本に戻ってきてからもファンタスティック・ネグリートのアルバムにリモート・レコーディング参加しているマサ小浜だが、両者はすでに30年近い信頼関係を誇る。「マサがいるなら俺はブルージーに行ける」、「エグザヴィエのやることならどうとでも演奏を合わせられる」。両者はそう感じているのが、手に取るように分かる。

エグザヴィエがアコースティック・ギターを弾きながら(彼は、ピックは使わない)歌い、マサ小浜がエレクトリック・ギター音(スライド・バーを用いる場合もあり)を加える。新作『Grandfather Courage』(Storefront、2023年)は2022年作『White Jesus Black Problems』のアコースティック・ヴァージョン作であったので、今回のデュオの実演はいい機会でもあった。ファースト・セットでは、それらに収められていた曲も旧曲にまじえ披露。とはいえ、新作をフォロウするというよりは、エグザヴィエの楽曲や歌唱のもと両者の切っても切れない関係性を明解に提示しているという感想を得た。当然、そこにはブルース感覚をはじめ米国黒人音楽にまつわる様々な流儀が編み上げられる。

そして、セカンド・セットはもっと自在に広がった。新曲を続けたと思ったら、途中からエグザヴィエはグランド・ピアノの前に座り、ピアノを達者に弾きながら歌っていく。マサ小浜のMCによればエグザヴィエと最初に会ったとき、ピアノは弾いたもののギターはまだ弾けなかったそう。ピアノを弾きながら、彼はエグザヴィエ名義で1995年にメジャーからリリースした『The X Factor』(Interscope。もちろんマサ小浜も参加している)収録の“Cinnamon Girl”も歌った。このピアノ・マンのパートでは総じてポップというか、ロック的な味が増したのではなかったか。昔アート・ネヴィルにインタヴューした際に、彼が「(甥の)アイヴァンはいつもエルトン・ジョンの〈ベニー・アンド・ザ・ジェッツ〉を弾き語りしとった」という発言を、ぼくは思い出してしまった。

それはともかく、多彩な2人のショウの運びに触れて感じてしまったのは、エグザヴィエがあっけらかんと抱えている立脚点の多様さでもあった。白人しか住んでいない小綺麗きわまりないマサチューセッツ州グレイト・バーリントンに生まれ、多感な時期は西海岸のメルティング・ポットたるオークランドで育ち、彼は親への反発もあり若いときから独立独歩の道を歩んでもいる。そうした様々な米国人としての経験をクレヴァーな彼は俯瞰するように内に持ち、その一方ではアフリカン・アメリカンの根にあるブルースが持つ生理的にドロドロとし、焦燥感を抱えた表現にも留意するようになった。そして、そんな過程における最大の功労者が、ブルースやゴスペルをはじめ米国黒人音楽の様々なヴァリエイションを出せてしまうギター巧者のマサ小浜であったのは想像に難くない。

アフリカン・アメリカンである証を糧におきながらも、彼は思うままに時間軸や地域軸を移動してしまう。エグザヴィエが90年代に次代のプリンスとなることを求められることでメジャー・デビューできたのもそうした“飛躍”があったからだろう。そして1960年代後半から果敢にそれをまっとうした最たる人物がスライ・ストーンであった(←すみません、今回の彼がスライに似ていたのでこういう記載をしたくなりました)。だが、ブラック・ミュージックの発展や越境のあり方の一つの重要な方策や発想があちこちに埋められ、この晩に舞っていたのは疑いがない。エグザヴィエとマサ小浜の、どこか素を見透かさせるショウに接して、ぼくはそんなことを強く感じてしまった。

(協力:吉岡正晴)

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FANTASTIC NEGRITO
Grandfather Courage
ファンタスティック・ネグリート/グランドファーザー・カレッジ
CD(Storefront/ウルトラ・ヴァイヴ FNGCCD01J)[輸入盤・国内流通仕様]

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