ラーキン・ポーの最新アルバム『ブラッド・ハーモニー』はメーガン(ラップ・スティール、ドブロ)とレベッカ(ヴォーカル、ギター)のラヴェル姉妹の“血の調和”をそのまま音楽にした作品だ。2人の夫たちから実の母親までファミリーを総動員。ソフィスティケートされたソングライティングとご先祖様のエドガー・アラン・ポーによるアメリカの呪縛が融け合いながら、ブルース&サザン・ロックで彩られる家族の血脈を描く作品となっている。
彼女たちへのインタヴュー記事は本誌No.169に掲載されているが、ここでは未掲載パートを紹介しよう。両方併せてお楽しみ下さい。
[取材・文]山﨑智之
[取材協力・写真提供]ソニー・ミュージックジャパンインターナショナル
―― これまで2016年にエルヴィス・コステロのオープニング・アクト、2018年には単独公演で来日しています。2020年の日本公演はコロナ禍で中止になってしまいましたが、ぜひまた来て下さい。これまでの日本の印象はどんなものですか?
メーガン「最高よ。みんなフレンドリーだし、音楽に対して情熱を持っている。前回の日本公演が中止になってしまったのは残念だけど、2023年にはみんなの前でライヴをやりたいわね」
―― 前作『Kindred Spirits』(2020年)はカヴァー・アルバムで、ロバート・ジョンスン、オールマン・ブラザーズ・バンド、デレク&ザ・ドミノズからエルトン・ジョン、フィル・コリンズまでの曲を収録していましたが、どんな基準で選曲したのですか?
メーガン「まず第一にファンの声を重視した。ライヴで盛り上がったり、ネットで反響の大きい曲をレコーディングしたわ。その逆に、彼らが予想もしないサプライズも入れたかった。結局のところ、自分たちの本能に従ったのよ。明確なルールは設けずやりたい曲、私たちなりに新しい命を吹き込める曲を集めたのが『Kindred Spirits』だった」
―― ハーモニー・ヴォーカルで参加している御母上は本業が理学療法士だそうですが、レコーディングをしたりステージで歌った経験はありますか?
メーガン「母親はミュージシャンではなかった。でも家でピアノを弾きながら歌っていたし、歌うことの楽しさを教えてもらったわ。両親共に医療に拘わる仕事だったし、まさか娘たちがツアーに出て、世界中のステージで歌うようになるとは考えてもいなかったでしょうね。今回62歳でレコード・デビューすることを面白がっていたわ(笑)。今後ソロ・シンガーとして活動するとは思わないけど、ラーキン・ポーのアルバムにはたまに参加して欲しいわね。ステージで一緒に歌っても良いと思う」
―― オールマン・ブラザーズ・バンド、ブラック・クロウズのロビンスン兄弟、そしてラーキン・ポーと、サザン・ロック系のバンドで家族が活動することがしばしばあるのは何故でしょうか?
メーガン「アメリカでルーツ・ミュージックをやっているミュージシャンはかなり若い頃からやっている人が多いし、一番身近な存在である家族と一緒に練習したりジャムをするのが自然なんじゃないかな。少なくとも私たちはそうだった。家族の日常の一部だったわ。人生ずっと一緒に過ごしてきたから、お互いの求めていることが判るし、コミュニケーションも取りやすいのよ。それに誰かの家のガレージを借りなくても、自宅でリハーサル出来るしね」
―― 過去のインタヴューで「ブルーグラスやマウンテン・ミュージックはブルースと多くの共通点がある」と発言していましたが、アイルランドなどから来た白人とアフリカから来た黒人の音楽がどのように似ているのでしょうか?
レベッカ「1920年代から1930年代、白人と黒人はまだ生活圏が隔離されていたけれど、ラジオ局は地域ごとにひとつ、あるいはふたつしかなく、人種に関係なく同じ音楽を聴いていた。ラジオで聴くだけではアーティストが黒人か白人か判らないから、お互いに影響を与えていたのよ。それでカントリーとブルーグラス、ブルースには共通するフレーズがあったりして、意図せずして人種間のクロスオーヴァーがあった」
―― ブルースはブルーグラスと較べて早くから女性アーティストが目覚ましい進出をしてきました。もちろん男性ブルースメンも多くいる中で、マ・レイニーやシスター・ロゼッタ・サープ、エタ・ジェイムズ、ココ・テイラーなどが大活躍しています。ブルースは女性が自己表現しやすい音楽スタイルだと言えるでしょうか?
レベッカ「確かに歴史的に20世紀の初めからブルースへの女性の進出は盛んだったけど、特に現代ではブルーグラスでも多くの女性アーティストが活躍していると思う。アリスン・クラウスもそうだし、モリー・タトルやロンダ・ヴィンセントもブルーグラス界で注目されている。多くのミュージシャンが女性の視点からメッセージを伝えているわ」
―― サザン・ロックというと長髪、木こりのようなファッション、洗っていないラッパ・ジーンズの荒くれ男たちというイメージがありますが、日本の若い女性たちを招き入れるにはどうすれば良いでしょうか?
レベッカ「サザン・ロックのステレオタイプなイメージのせいで敬遠してしまう人もいるかも知れないけど、日本の若い女性が共感し得る視点からメッセージを発信することで、アプローチしやすくなると思う。ラーキン・ポーはまさにそんな役割を持ったバンドだと考えているわ。サザン・ロックに対する偏見でレイシズムがよく挙げられるけど、代表的なバンドであるオールマン・ブラザーズ・バンドでも結成当初から黒人ドラマーのジェイモーがいた。サザン・ロックは人種や性別を超えたオープンな音楽なのよ」
―― ライヴでサン・ハウスの〈プリーチン・ブルース〉やロバート・ジョンスンの〈カモン・イン・マイ・キッチン〉を演奏していますが、何故これらの曲をピックアップしたのですか?
レベッカ「2022年を生きる白人女性が演奏することに意味がある曲を選ぶようにしている。ただ好きな曲だからカヴァーするのではなくね。かなりアレンジを変えて今、私たちがプレイする必然性があるヴァージョンにしているわ」
―― 2年前のハロウィンのYouTubeビデオでレベッカがWWEプロレスのアンダーテイカー、メーガンが『新スター・トレック』のデータの仮装をしていましたが、プロレスや『スター・トレック』のファンなのですか?
レベッカ「プロレスの大ファンというわけではないけど、WWEのレスラーのキャラ付けは面白いと思うし、アンダーテイカーはエンターテイナーとして魅力的で、学ぶことが多いわね」
メーガン「あの年はパンデミックで家に閉じこもっていたから『新スター・トレック』を一気に見て、ハマっていたのよ。そんな中でもヴィジュアル的にキャラが立っているのはデータだったし、ハロウィンに登場人物のコスプレをするならこれだ!と考えたのよ」
ラーキン・ポー公式サイト
www.larkinpoe.com/
LARKIN POE "Blood Harmony"
ラーキン・ポー/ブラッド・ハーモニー
CD(ソニーミュージック SICX30152)
1.Deep Stays Down
2.Bad Spell
3.Georgia Off My Mind
4.Strike Gold
5.Southern Comfort
6.Bolt Cutters & The Family Name
7.Blood Harmony
8.Kick The Blues
9.Might As Well Be Me
10.Summertime Sunset
11.Lips As Cold As Diamond
[日本盤ボーナス・トラック]
12.Bell Bottom Blues
ブルーグラス色の濃かったラヴェル・シスターズから発展、ブルースの根源へと向かっていくラーキン・ポーの第6作。ロック&ブルースの名曲の数々をアコースティック・ギターとスライドのベーシックなアレンジでカヴァーした前作『Kindred Spirits』を経て、歌ごころのツボを押さえたナンバーがずらっと並ぶアルバムとなっている。ダウン・ホームなブルースを感じさせる〈ディープ・ステイズ・ダウン〉、ゴキゲンな横揺れノリのサザン・ロック〈ジョージア・オフ・マイ・マインド〉などのルーツ成分は決して“借り物”ではなく、メーガンとレベッカのラヴェル姉妹のソングライティングと融け合いながら昇華させていく。
現代を生きる等身大の女性の視点から歌ったナンバーは鮮度が高く、一方で〈ジョージア・オフ・マイ・マインド〉でレイ・チャールズ、〈バッド・スペル〉でスクリーミング・ジェイ・ホーキンスへのオマージュを取り入れるなど、先達へのリスペクトにも顔がほころぶ。
気合い一発のスライドが唸るサザン・ロック、ミシシッピの泥濘を思わせるドロッとした触感などを交えながらも過剰にダーティになることがなく、くっきりとしたメロディが貫かれて喉越しは爽やか。初めてブルースやサザン・ロックに触れるリスナーでもすんなり入っていける取っつきやすさと、ディープなマニアも納得させる濃厚な味わいを兼ね備えた作風で、幅広いファン層の獲得が期待される。(山﨑)
インタヴュー本編は発売中の『ブルース&ソウル・レコーズ』No.169で掲載しています。
【ライター・プロフィール】
山﨑智之
音楽ライター。30年近くのキャリアで 1,200人以上にインタビュー、その中にはB.B.キング、ジョン・リー・フッカー、ボ・ディドリー、ジョニー“ギター”ワトスン、ルー・テーズ、デストロイヤーなども含まれる。絶賛寄稿中のYahoo!ニュースではアリゲーター・レコーズの総帥ブルース・イグロアへのロング・インタビューやカーク船長=ウィリアム・シャトナーがブルースを語るインタビューも掲載されているので是非ご覧いただきたい。