ブルース&ソウル・レコーズ

【LIVE REPORT】なにわブルースフェスティバル2022/9月11日(2日目)大阪・なんばHatch

天気は快晴。たくさんのお客様が待つ、なんばHatch2日目が始まった。(写真は開宴前のロビーライブ)


◆本夛マキ

この日のオープニング・アクトは新作『from scratch』を引っ提げての本夛マキ。以前観たとき一度でファンになってしまった彼女は、この日もキレのいいアコギと、風を感じるようなスケールで、3曲ながら確実にお客さんを掴んだはずだ。

カヴァー曲は、ムッシュかまやつの<ゴロワーズを吸ったことがあるかい>。前日にKenKenも歌ったこの歌の世界観は、若い世代に計り知れない憧れと共に受け継がれていきつつあるようだ。


◆BIG HORNS BEE(金子隆博、河合わかば、小林太、織田浩司、石川周之介、小沢篤史) with 木村涼介、ナイルパーチ富樫(樫太陽)

続いてNBFではサポートにアレンジにと大活躍のBIG HORNS BEEをフィーチャー。特にこの日はジャズ・ファンク<アフリカン・フィーバー>もメンバーが走り回っての激アツだった。J.B.系ファンク仕様の新曲に“サム&デイブ”が欲しいとのことで、若手の木村亮介(dps)、ナイルパーチ富樫(Heartful Funks)の2人を招集。成りきった歌と振り付けに、会場は一気にダンスホールのムードに。


◆武田と哲也 with B.H.B. 清水興バンド

アフリカとファンクの渦に巻き込まれくらくらしていると、今度はスウィート・ソウル・レビューが始まった。Skoop On SomebodyのTAKEとゴスペラーズの村上てつやによるデュオだ。ピンクとアイボリーのスーツが映える。「普段J-POPフィールドにいるのでこうやってねちねち歌うことはないですから」と笑わせながら、アイズレー・ブラザーズの“Between The Sheets”そしてEW&Fの“Can’t Hide Love”で酔わせた。シルク・ソニックが注目を集めた昨今、ソウル・デュオは旬なのかも。


◆バンバンバザール(福島康之 黒川修、下田卓、丸山朝光、松井朝敬、Fumimg)with 有山じゅんじ

続いてジャグ・バンド~オールド・ジャズ・ベースの香りを纏い、意外にも初出場のバンバンバザール。バンジョー、ハワイアン・スティール・ギター、トランペット、ピアノを交えたDX編成で<ニューオーリンズにて><こないだのことさ><明るい表通りで><バーボン・ストリート・ブルース>。オリジナルもカバーも、とにかく曲に力がある。名曲<家庭教師2003>では“もぎたてのフルーティスト”こと有山じゅんじがヴォーカル、フルートで加わった。


◆三宅伸治&The Spoonful(三宅伸治、KOTEZ、高橋"Jr."知治、茜)

<ブギシンジ>から<JUMP>まで全5曲を飛ばしまくり、ライブ・バンドの逞しさを見せた。<ぶっ飛ばせベートーベン>では、アルバート・コリンズ風のフレーズから客席を練り歩く。これにはお客さんも応えるしかない。

三宅さんはこの日出演した木村充揮ロックンロールバンド、KOTEZさんはblues.the-butcher-590213のメンバーでもあり、東と西、過去と未来をつなぐ上でメンバーの三宅、そしてハーモニカのKOTEZの果たす役割は大きい。ただハーモニカ・プレイヤーが彼一人っていうのは、ブルース・フェスとしてはちょっと寂しいかな。


◆泉谷しげる/有山じゅんじ

さて、ここでNBF音楽プロデューサーとしても大活躍の有山じゅんじのソロ・コーナー。いいカンジにお酒も入って「いっぱい聴いてほしい曲があります」と曲のさわりだけを歌っていく。それだけで世界を創ってしまえるのは、有山さんだけだ。

客席からのリクエストで<SABA-GIN>を唄った後、僕はこんなもんでと、泉谷しげるが呼び込まれる。

「一つ返事で来てくれた」と心からうれしそうな有山さん。共演は40年ぶりだという。

泉谷しげると有山じゅんじがギターを抱えて並んでいるというだけで「ヤッター!」な気分なところに、サウス・トゥ・サウスが参加した『家族』にも入っていた<野良犬>。

サウス&泉谷による拾得ライブも最早伝説だし、確か憂歌団を最初に評価したのも泉谷さんだと聞いたことがある。

「同じ時代に一緒にやっていた人たちがいっぱい出てるからね」
と泉谷さん。そういう気持ちだったんだなと、今改めて確認できてうれしい。

ジャンルを超えて混じり合い、リスペクトし合い、時に反発し合いする様をリスナーも体験してきたのが70年代だった。その中でニッポンのブルースも熟成していったのだと思う。

有山さんがはけて、さぁ泉谷しげるオンステージ。「周りは次々に引退しますが、俺は辞めません!」と宣言してからのよしだたくろう<イメージの詩>。「迷惑かもしれませんが、全力でいきます!と<Dのロック>から<春夏秋冬>へ。もう個人的にガッツポーズの連続である。

今日ですべてが終わるさ、今日ですべてが報われるとの歌詞が、窮屈な日々に響く。

なんでもかんでもブルースにするつもりはないが、このほとばしる生命力、這い上がろうとする思いの強さ、えぐみ。型どおりの十二小節より、よほどブルース衝動に近い。


◆木村充揮ロックンロールバンド(木村充揮、三宅伸治、中村きたろー、ケニー・モズレー、前田サラ)

興奮醒めやらぬ中、登場した木村充揮ロックンロールバンドは、今年から本格始動してアルバム・リリース、FUJI ROCKへの参加で確実に“バンド”になってきた。
木村さんがいつも以上に大きく見えるのは気のせいではないだろう。歌に反応する前田サラのエモーショナルなサックスの力も大きい。“Kind Hearted Woman ”<野良犬><胸が痛い><おもろいな><今夜きみと最高な気分>とおなじみの曲ばかりだが、決していつもの歌ではなく今の歌として輝いている。


◆blues.the-butcher-590213(永井ホトケ隆、KOTEZ、中條卓、沼澤尚)

さて翌日からロング・ツアーを控えたblues.the-butcher-590213。今や英語のカヴァー勢の方が稀少になったが、土台のしっかりした家は強い。誰がどこから見てもかっこいBTBであった。

KOTEZが歌う“Crazy Mixed Up The World”を挟み“Manish Boy”“Blow Wind Blow” “Long Distance Call” “Got My Mojo Workin” とマディ・ウォーターズの代表作ばかりを4曲。

前日、上田正樹さんがステージ上からホトケさんに同士へのラブコールを送ったが、この日は「キー坊のバンドが観たかったので前ノリしました」とホトケさんからアンサーメッセージ。


◆金子マリPresents 5th Element Will featuring 北京一(金子マリ、北京一、森園勝敏、窪田晴男、大西真、松本照夫、石井為人)

NBF皆勤賞の金子マリさんだが、今年は自分のバンドで立てて、うれしさを隠しきれない様子だった。マリさんが歌う忌野清志郎の<彼女の笑顔>に始まり、新作『R45+』の中から森園勝敏、窪田晴男、北京一も自分のヴォーカル曲を披露する。

ラスト・ナンバーは砂川正和ヴァージョンの “A Change Is Gonna Come”。私はこの歌を聞くと、いつも空の上から、この世でまだじたばたする自分たちへ届いたメッセージのように聞こえることがある。

マリさんのそれは、いつも一つひとつの言葉が心におりてゆくのだが、とりわけ「大丈夫。やっていける」「きっと変わる」は、ぐっと深く響いた。
ようやくみんなで集まれた今年。また来年、みんなで一緒にと思うと特別な気持ちになった。

この日のアンコールは、クラウドファンディングのために有山じゅんじが書き下ろした<それでいいのだ!やったあ!!>と<Iko Iko>。クラウドファンディングのリターンでステージから名前を呼ばれるお客さんもいて、出演者もお客さんも本当に「やったぁ!!」な気分で迎えたハッピーなエンディングだった。

ニッポンのブルースを俯瞰する上で、こんなに視野を広げてくれるフェスはない。同時にNBFは“歌の祭典”であり、“ビートの祭典”でもある。参加するたびに先輩たちが70年代に蒔いた種から、ニッポンのブルース&ソウルが育っていることを実感する。

来年もきっとまた、なにわで。

(妹尾みえ)


↑全員に配布されたパンフレットとイベントポスター。おみやげ付ブルースシートはSOLD OUT!


なにわブルースフェスティバル2022
2022年9月11日(2日目) 大阪・なんばHatch
naniwabluesfestival.com/

・有山じゅんじ
・泉谷しげる
・井上央一
・金子マリ Presents 5th Element Will With featuring 北京一
・木村充揮ロックンロールバンド
・嶌岡大祐
・清水興
・高木太郎
・武田と哲也(TAKE from Skoop On Somebody、村上てつや fromゴスペラーズ)
・ナオユキ
・長尾琢登
・バンバンバザール
・BIG HORNS BEE
・blues.the-butcher-590213
・本夛マキ
・三宅伸司 & The Spoonful

協力:NPO法人なにわブルージー、グリーンズ、ジョイフルノイズ
写真:FUJIYAMA、Mie Senoh