2022.10.7

【LIVE REPORT】なにわブルースフェスティバル2022/9月10日(1日目)大阪・なんばHatch

2020年は配信、21年は直前での中止決定。お客さんと会えるのはまさに3度目の正直。絶対開催したい!との思いの下、クラウドファンディングなども行われ、とうとう6回目の「なにわブルースフェスティバル」(NBF)の当日を迎えたのだった。

開演前、ロビーでプロデューサーも務める有山じゅんじと清水興に玉置賢司、クリエイターの張間純一も加わり、“Sittin’ On Top Of  The World”のメロディにのせ「なにわブルースフェスティバル2022へようこそ~」と歌う。このさりげないおもてなし感。着いてから帰るまで楽しんでやの心くばりが、このフェスらしい。

2日目にはここにハーモニカのKOTEZも参加し、開演前の会場を温めた。

当時の浪速区長 現在「NPO法人なにわブルージー」理事長の玉置賢司氏の発案で2016年から始まったこのイベント。“なつかしい あたらしい”と銘打つ、過去と未来を結ぶ“新旧ごった煮”進行形フェスである。

それにしても、今回もやっぱり「なにわ」と「ブルース」はパワー・ワードだった。出演者に典型的な“ブルース・バンド”は、ほとんどいない。だがこの日ばかりは、それぞれが「なにわ」「ブルース」のイメージから自分のルーツをたぐり寄せ、いつもとちょっと違うステージを見せてくれるのだ。


◆ナオユキ

満員のお客様が待つ会場に、せつないSEが流れ出す。スタンダップ・コメディアンのナオユキだ。大阪で観るナオユキはやっぱり格別。特に2日目はお客さんからの掛け合いもあって楽しかったなぁ。ナオユキは何度か幕間に登場するのだが、決してつなぎではなく佇まいそのものがNBFの空気を温めている。


◆ダニエル斉藤

オープニング・アクトの地元・大阪のイカ松RECORDから『こんな俺に挨拶はいらない』でデビューした高知出身のダニエル斉藤。懐かしさをはらんだフォーキーな演奏に温かい拍手が送られる。


◆OSAKA ROOTS

トークもなく、ストイックにプレイに向かうステージは変わらずだが、シカゴ譲りの久米はるきのスクウィーズ・ギターも、南あやこのサックスもより鋭くなった印象。「一番は絶対リズム」「ズレのぶ厚さを楽しむ」とは、フェスのパンフに掲載されていた久米の言葉。これからも肌で学んだブルースの極意を胸に、着実に進んでいくだろう。


◆Shiho with B.H.B. 清水興バンド

一転、ぱっと大輪の花が咲いたようなステージを見せたShihoは、Fride Prideとして米コンコードから日本人初のデビューを飾ったヴォーカリスト。気さくなトークとおおらかなヴォーカルにお客さんが笑顔になっていく。ファンク調のマイケル・ジャクスン “Bad”で魅せる。

サポートするのはベースの清水興率いるハウス・バンド。曲によっては BIG HORNS BEEの分厚い5管が加わる。彼らの巧みな演奏力とアレンジ(キーボードのフラッシュ金子さん大活躍)によって、どんなヴォーカリストも迎え入れることができる。これもNBFの強みだ。

特に今年はギターに井上央一(てるかず)、ドラムに長尾琢登(たくと)という若手を登用。まさに新旧ごった煮の強みを見せた。

歌に対し機敏に反応する井上くんのギター・ソロに拍手が起きる。一方 最近では鈴木茂のバンドでも演奏する長尾くんは20代で、出演者の中でもちろん最年少。ビッグ・バンド・スタイルからブルース、ソウルまで大らかにプレイする姿にお客さんはもちろん出演者もエネルギーをもらったはずだ。


◆韻シスト

「僕らはルーツミュージックの流れがあってジャズ、ブルースが大好きでここに立ってます」とは、第1回目にも出演している韻シスト。ヒップホップというカテゴリーで捉えていたけれど、ポップでグルーヴィで自然に身体が揺れた。「せっかくだからブルースをやります」と日本語でオリジナルを歌う柔軟さはそのまま彼らの姿勢なのだろう。


◆KenKen 金子マリwith B.H.B. 清水興バンド

さぁ、ステージには再び5管のハウス・バンドと共にKenKenが登場。ムッシュかまやつの<ゴロワーズを吸ったことがあるかい>で一気に時間も場所をも超える。いろんな世代がつながっていくことを「Life is groove」と呼んでいるとKenKen。

「そのためにはブルースが大事だと思います。今、若い人にもブルースに興味を持つ人が増えていて、ブルースがすごいキテます」
とブルース・ファンにうれしいひと言も。

そして「みんなの歌姫が大阪に帰って参りました」と愛息に紹介され、<ワタシハスゴイ>のイントロで中央のマイクまでゆっくり歩を進める金子マリ。この曲は金子マリpresents 5th Element Willの最新作『R45+』収録の人生が愛おしくなるナンバー。歌い出しから目頭が熱くなる。さらに石田長生の名前を呼んでの<最後の本音>をはさんでから、名曲<ありがとう>にまたこみ上げるものが。

言葉の一つひとつを丁寧に掌に乗せ空に放つマリさん。歌に命を吹き込むからこその歌姫なのである。


◆なにわなおっちゃん唄い隊(有山じゅんじ、木村充揮、近藤房之助、リクオ、マーティー・ブレイシー、清水興)

さてある意味、NBFのメインイベントとなるのが木村充揮、有山じゅんじ、近藤房之助、そしてリクオによる「なにわなおっちゃん唄い隊」だ。<Let It Shine On ~陽よ昇れ>から、房之助さんがスライドを弾きながらの<It Hurts Me Too>へ。房之助さんの出番がここだけというのは寂しい。オウン・バンドでステージに立ってほしいと思うのは私だけではないだろう。

<これが男の生きる道><出稼ぎブルース>といった人情あふれる “なにわソウル”に歓声が上がる。

そんな濃厚なおっちゃんたちに混じり、忌野清志郎と共作した<胸が痛いよ>で、一瞬にして自分の世界に塗り替えるリクオ。

ラストはNBFのテーマソングみたいな<梅田からナンバまで>。半世紀前『ぼちぼちいこか』から共にあったこの歌、あと10年、20年後も一緒に歌いたい。


◆佐藤竹善 with B.H.B. 清水興バンド

再びハウス・バンド登場し、佐藤竹善を迎える。クイーンの“Don’t Stop Me Now”やナット・キング・コールのヴァージョンが一番好きだと言う“Lover Come Back To Me”。5管なのにまるでビッグ・バンドのようにゴージャスだった。


◆根本要 with B.H.B. 清水興バンド

トークでも演奏でも多いに客席が沸かせたのがSTARDUST REVUEの根本要。
ビートルズの“Oh Darling”に始まり、エリック・クラプトンで知ったという“Nobody Knows When You're Down And Out”、そしてクリームの“Politician”。そして「今日やった曲を僕なりにまとめてみました」とオリジナル“Blues In The Rain”で締めくくる心憎い構成。

噛み合わずに仕切り直しとなる場面もあったが「歌詞を忘れても(演奏は)止まらないのがブルースですね」と笑わせる。

「高校の文化祭みたい」と心底楽しそうに335を弾き、歌う姿を見ながら私もブルースに出会ったころの情熱を思い出した。ブルースの専門誌では絶対話題にならない人だけれど、こうしてたくさんの人がブルースを愛しているんだな。


◆上田正樹R&B BAND(有山じゅんじ、樋澤達彦、堺敦生、Yoshie N. Marvin Lenoar)

 “Hold On I’m Comin‘”やジョー・コッカーも歌っていた“The Letter”。レイ・チャールズはじめ、出会ってきたレジェンド達一人ひとりにリスペクトを送りながらシャウトする。

「昔は情緒があったんです」と歌い始めたのは<なつかしの道頓堀>。

まちの景色は変わっても、変わらないものがある。同様に“キー坊”のSOUL TO SOUL~この魂を伝えたいんやの気持ちは何ら変わらない。

途中「今日は客席に永井ホトケ隆が来てます」と前乗りしたホトケさんに語りかけた場面は、お互いに頑張ってきたレジェンド同士、エールを送り合う場面も。

アンコールの<あこがれの北新地>と<Iko Iko>が終わってみれば、11時近く。5時間に及ぶ濃厚なコンサートになった。

会場を出てみると道頓堀の空には、大きな満月。
皆と一緒に空を見上げながら、ブルースがこころを解放してくれた、いい夜だったなと思った。

(妹尾みえ)


なにわブルースフェスティバル2022
2022年9月10日(1日目) 大阪・なんばHatch
naniwabluesfestival.com/

◆出演
・有山じゅんじ
・井上央一
・韻シスト
・上田正樹R&B BAND
・OSAKA ROOTS
・金子マリ
・KenKen
・佐藤竹善
・Shiho
・清水興
・ダニエル齋藤
・ナオユキ
・長尾琢登
・なにわなおっちゃん唄い隊
・根本 要(STARDUST REVUE)
・BIG HORNS BEE

協力:NPO法人なにわブルージー、グリーンズ、ジョイフルノイズ
写真:FUJIYAMA

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