ブルース&ソウル・レコーズ

【LIVE REPORT】なにわブルースフェスティバル2023 それぞれのルーツが交わる「なにわグルーヴ」の2日間/1日目

なつかしい×あたらしい なにわブルースフェスティバル2023
1日目/2023年9月9日(土) 大阪なんばHatch

2016年から始まった当フェスも7回目。初日はなんばHatchに立ち見のお客様も。初めて参加した方も一定数いたようで「観たことも聴いたこともない出演者を楽しんで」。MCの柿木央久さんが呼びかける。


◆良元優作

デビューしてもう20年近くになる彼は今や中堅と言ってもいいだろう。ミスター・ボージャングルへのオマージュ〈キムおじさん〉から、ゆっくりと空気をつくっていく。ブルースのリズムで「俺は今無敵」と歌う〈今日はいい天気〉では自然と手拍子が起き〈道間違える〉へと。短い時間だったが、確かに彼の見た風景の中に連れていってくれた。ブルースと謳っているが、このフェスはなつかしい×あたらしい “歌”の祭りでもあると思っている。そういう意味ではふさわしいオープニングだった。


◆木村充揮ロックンロールバンド(三宅伸治/中村きたろー/Kenny Mosley/前サラ)

レッド・ツェッペリン “Rock And Roll”のSEに乗って、ふらっと歌いに来ましたという体で木村充揮がステージへ。ゆっくり“Kind Hearted Woman Blues”で始まるや一転、セカンドラインのリズムへ。前田サラのサックスがビートをつかみ斬り込んでゆく。あの〈おそうじオバチャン〉もジョン・リー・フッカーのようなブギに生まれ変わってかき回してくれる。「Woo!アッ!」このひと言で「大事なのはキモチだよ」という歌詞そのままに人の心を鷲づかみにする木村充揮は、ファンクの王様にも見える。三宅伸治に負けず劣らず、思いきりギターを弾く姿は本当にかっこよく、このバンドでなら、オール新曲でもいいと思えた。大胆にアレンジされた〈嫌んなった〉に最初は面食らったが、50年来の名曲と木村自身が内に秘めていたパワーに触れたと気づいた瞬間それはワクワクに変わった。


◆有山中西ぼちぼちセット(泉谷しげる/有山じゅんじ/中西康晴)

今年はサウス・トゥ・サウス、ストリート・ファイティング・メンで2人とは縁の深いピアニスト中西康晴が登場。イズミヤ~!と声がかかり、ひときわ大きな拍手の中で始まったのは〈野良犬〉だ。跳ねるグルーヴ、ざらざらとした手触り。泉谷がシャウトし、ピアノは品よくころころと転がり、リズムの波に乗った有山のギターもどんどん鋭くなっていく。演奏が終わって3人が拳をつきあげる。お客さんも同じ気持ちだろう。ありがとう~!と誰かが言う。
2曲目の〈街角〉でも、この日を喜んでいることが、中西のピアノに耳を傾ける2人から伝わってくる。

続いて、泉谷しげるが1人ステージに立つ。
「このブルースフェスに来れて幸せです。また来年も来れるようにいい演奏をします」「この歴史的人物たちと一緒にやれるのは楽しいです。がんばります」と、なんと歌に対して誠実なんだろうか。

昨年同様〈イメージの詩〉と〈春夏秋冬〉を歌う。〈イメージの詩〉はよしだたくろうが18歳のときに作った歌。歌は色褪せないというが、置いていかれそうになった歌に命を吹き込むのは歌い手だ。そして泉谷しげるという歌い手には、歴史の上に立って歌っているという強い自覚を感じる。
「自分だけの今日に向かって歌え!」と客席にも呼びかける〈春夏秋冬〉。過去を背負いながら、明日ではなく今日の自分に向かって歌う。私はそこにブルースを歌ってきた人たちと同じ想いを改めて見ていた。


◆有山中西ぼちぼちセット(上田正樹/有山じゅんじ/中西康晴)

泉谷しげるに代わり、再び有山じゅんじ、中西康晴、さらに上田正樹が登場。サウス・トゥ・サウスの第1部メンバー降臨!となれば『ぼちぼちいこか』だ。ピアノが弾き始めると一瞬で色が変わる。〈あこがれの北新地〉、エレガントなピアノから始まる〈大阪へ出てきてから〉、〈Come On おばはん〉、〈なつかしの道頓堀〉。歌を歌い継ぐと書いたが、この歌の匂い、臭み、体温、こればかりは彼らにしか出せない一代限りのものかもしれない。


◆ナオユキ

両日登場したナオユキも、このフェスになくてはならない存在になった。

「夏うだるような暑さ……」
この日披露した酒場が舞台ではない、季節ネタが新鮮だ。場所がどこであれ、名も無き人たちは、みんな人生の主人公。ナオユキを通じて描かれる彼らの体温がお客さんをほぐしていくから、彼がはけた後も会場には笑顔が残る。


◆BEGIN(比嘉栄昇/島袋優/上地等)

「ルーツを持ってる音楽家たちのコンサート」とこのフェスを表現し、ドラム・ベースを含む5人編成でステージに立ったBEGIN。

比嘉はウォッシュボード、上地はアコーディオンを抱え、最近の彼らの十八番であるサンバのルーツ「マルシャ」に乗せ、ノンストップで次々に歌を繰り出してゆく!〈上を向いて歩こう〉といった昭和歌謡から、オリジナルの〈笑顔のまんま〉〈オジー自慢のオリオンビール〉、三線に持ち替えての〈ソウセイ〉、そして〈涙そうそう〉まで一気に駆け抜けた。それにしてもBEGINはバンドとして強い!


◆Generations On Da Table(山岸潤史/TAKU/KenKen/SATOKO/金子マリ)

これほど「あたらしい×なつかしい」とのコンセプトにぴったりなバンドがあるだろうか。山岸潤史、金子マリに、80年代生まれのKenKen(b)、SATOKO(dr)、TAKU(g/韻シスト)。世代のギャップは壁ではなく、ミラクルを生む。ムッシュかまやつの〈ゴロワーズを吸ったことがあるかい〉〈バン・バン・バン〉で始まり、〈最後の本音〉、そして山岸のギターがこの上なくエモーショナルだった〈彼女の笑顔〉〈ありがとう〉へ。レパートリーも世代を超え次代へ続くものだ。天国に行ってしまった人たちのことを想い、歌とグルーヴに命を吹き込み続ける5人が見えない糸でつながり、磨き上げていく様が見えた。


◆OSAKA ROOTS

「いときんさんが残してくれた最高のブルース・バンドです!」
クラウドファンディングでMCの権利を獲得したファンが、ぐっとくるフレーズで彼らを呼び込んだ。トリ前での登場には「未来をまかせたで!」との周囲の想いもあると見た。ブルース・バンドといえばマディだB.B.だと、誰それの曲を演奏したと書きたくなるのだが、彼らの場合、それは野暮。ムダなトークなど一切なしにこれが全てと完全燃焼するギターの久米はるきの気概にメンバー全員が集中し、南あやこのサックスがさらにエモーションを注ぎ込む。こちらもOSAKA ROOTSのブルース、グルーヴのすべてを正面から受け止めた。


◆BIG HORNS BEE(金子隆博/佐々木史郎/小沢篤史/河合わかば/石川周之介/オリタノボッタ)

すっかりこのフェスの顔となった彼らは5管に加え、山岸潤史、清水興、マーティ・ブレイシーという布陣。ゴージャスな“I Can’t Stop Lovin’You”に身を委ね、ビッグ・バンドの醍醐味にため息のような拍手が起きる。年を重ねるごとにBIG HORNS BEEのファンになっていく。続いて山岸があの長髪教授のイントロをギターで弾き“Big Chief”を歌う。ギターからホーンへのリレーがスリリング。全身でバンドへのタイミングを図る山岸と私も息を合わせる。ギターだけでこんなに色合いが変わるんだと、はっとする瞬間がいくつもあった。とりわけ山岸とマーティによるギターとドラムスの掛け合いは熱かった。


なにわソウル、なにわブルースともう一つ、なにわグルーヴと呼んでもいい。そんな彩り豊かなグルーヴを楽しむコンサートでもあるこのフェスを物語る最高のエンディングだった。

文・妹尾みえ 写真・FUJIYAMA HIROKO
取材協力:グリーンズ/NPO法人なにわブルージー/ジョイフルノイズ