サマンサ・フィッシュが2026年2月、ブルーノート東京で来日公演を行った。
コンテンポラリー・ブルースの旗手として支持されるギタリスト/シンガー・ソングライターのサマンサだが、最新アルバム『Paper Doll』がグラミー賞ノミネート、クリストーン“キングフィッシュ”イングラムとの北米ツアーも成功を収めるなど、その評価は上昇中。若い世代の音楽ファンの目をブルースに向ける求心力で注目されている。
2025年10月に日本初上陸を果たした彼女だが、初日の1stステージを終えたところで体調不良でダウン。残りの公演をキャンセルして帰国している。だがそれからわずか4ヶ月で、彼女は日本に戻ってくることになった。
公演最終日となる2026年2月13日、1stステージの直前に楽屋にてサマンサへのインタヴューを敢行。2日間(1日2公演)を経て日本市場への本格侵攻の手応えを感じたのか、彼女は余裕すら窺わせる語り口で現代のブルースを語ってくれた。
[取材・文/山﨑智之]
[取材協力]BLUE NOTE TOKYO /CONCORD Label Group
[ライヴ写真撮影]佐藤 拓央
――日本に戻ってきてくれて、嬉しいです。
サマンサ・フィッシュ(以下SF)「去年のことは私もすごく残念だったし、出来るだけ早く帰ってきたかった。今回は無事ショーをやることが出来て嬉しいわ。シンガーの喉は気を付けていても壊れることがあるのよ。日本に行く1週間前に風邪をひいて良くなったと思ったら飛行機で声帯がぼろぼろになってしまった。喉頭炎だったと思うけど、残念だったわ」
――今回の日本のショーにはどんな層のお客さんが集まりましたか?
SF「ギターのファン、ロックンロールのファン、ブルースのファン、ソングライターのファンだったり、女性のエンパワーメント意識を持った人・・・・・・はっきりとは言えないけど、いろんなタイプの人がいたと思う。それが面白かったわ」
――東京の街を歩くことは出来ましたか?
SF「うん、ほとんどの時間はホテルとライヴ会場の往復だったけど、抜け出して歩いてみたわ。寿司店にも入ってみたし、ちょっとした冒険だった。でも最高に楽しかったし、また戻ってくるのが楽しみだわ」
――去年10月の初来日の後、『Paper Doll』で2度目のグラミー賞《コンテンポラリー・ブルース》部門にノミネートされるなど、ブルース・カルチャーにおいて重要な役割を果たすようになりましたが、心境の変化はありましたか?
SF「私はいつだって今の自分がやっていること、これから自分がやることに集中しているのよ。『Paper Doll』はすべての力を注いで曲を書いてレコーディングしたアルバムで、それが評価されたことは嬉しいし光栄だけど、今はさらに前方に進んでいくことを考えています」
原点はカンザス・シティ
――デビューからずいぶん遠くまで来たことで、「もうカンザスにはいない気分」になることはありますか?(映画『オズの魔法使』のドロシーの台詞。サマンサはミズーリ州カンザス・シティ出身)
SF「カンザスというと『オズの魔法使』を思い出す人が多いかも知れないけど、私が育ったのは都会のカンザス・シティで、カウント・ベイシーに代表されるジャズやブルースが栄えてきた地域だった。私は地元のクラブで行われるジャム・セッションに参加して、先輩たちとジャンプやスウィングをプレイしながら伝統を吸収してきたのよ。私はカンザス・シティに住んでいるとき最初のバンドを結成して、ずっと本拠地にしていた。27〜28歳になってニューオーリンズに移ったけど、原点となったのはカンザス・シティね」
――それからあなたはブルースの福音を世界に伝道しているわけですが、2026年のブルース界をどのように見ていますか?
SF「ブルースは下火になったように思えても小さなクラブやジューク・ジョイントで演奏され続けて、熱心なファンに支持され続ける。そして何年かすると再評価の気運が高まって、盛り上がるときが来るのよ。映画『罪人たち』はそのきっかけとなり得ると思う。あの映画にはバディ・ガイ、エリック・ゲイルズ、ブー・ミッチェル、サザン・アヴェニュー、クリストーン“キングフィッシュ”イングラムなども関わっているし、若者たちが見て“クールだ!”と、ブルースに興味を持ってくれたら素晴らしいわ。将来的にどのような影響を残すのか、一時的なものになるのか判らないけどね。それで、もしまたブルース人気が落ち込んでも、歴史と伝統を守り続け、可能性の幅を押し広げて自分の“ヴォイス”を見出していくミュージシャンが出てくると思う」
――スクリーミング・ジェイ・ホーキンズの“I Put A Spell On You”はこれまで数多くのアーティストがカヴァーしてきましたが、あなたのヴァージョンは誰のものから影響を受けましたか?
SF「私のヴァージョンはまるっきりタブ・ベノワのコピーよ。彼がプレイするのを18、19歳のときに聴いて、彼のギター・スタイルがあまりに最高にスペシャルで大好きだったのよ」
――今日のブルース人気であなたの個性が際立っていることのひとつは、ヴィジュアル面でファッショナブルな要素を取り入れていることだと思います。デニムとネルシャツのランバージャック・スタイルだったりせず、アルバム・ジャケットやステージでもスタイリッシュですね。
SF「ブルース・ミュージシャンであっても自分のフェミニンな面は大事にしているし、元々ファッションやショー・ビジネスは好きなのよ。それを音楽やステージ・パフォーマンスに取り入れていくことが自分の美学だと考えているし、トータルなエンタテインメントとして楽しんでくれたら嬉しいわね」
――白のギブソンSGやシルヴァー・スパークルのES-335など、ギターのヴィジュアルも魅力的ですね。
SF「うん、アメリカでツアーに持って出ているすべてではないけど、お気に入りのギターを日本に持ってきているわ。今弾いているSGを手に入れたのは『Chills & Fever』(2017)の頃だった。その頃、私は変化を必要としていた。それでビッグ・バンドを起用して、1960年代のソウルを何曲もカヴァーしたんで、ステージ・コスチュームもそれに合わせたのよ。それでギターも新しくすることにした。AC/DCのアンガス・ヤングやデレク・トラックス、シスター・ロゼッタ・サープのファンだったし、彼らがSGを弾いていたんで、ちょうど楽器店で見つけたアークティック・ホワイトのSGを手に入れたわ。ES-335は『Belle Of The West』(2017)のとき、プロデューサーのルーサー・ディッキンスンが持っていたのを弾かせてもらったのよ。ハードに弾かなくても叫んでくれるし、ディープな反響音が得られると言っていたわ。それでシルヴァー・スパークルの335を見つけて、ディスコのミラー・ボールみたいだと思ったけど、どうしても欲しくなって買ったのよ」

プロデューサー選びは不思議なもの
――ルーサー・ディッキンスンもそうですが、『Black Wind Howlin'』(2013)ほかのマイク・ジトーなど、プロデューサーのチョイスも良いツボを突いていますね。
SF「プロデューサー選びは不思議なものなのよ。誰かと知り合って、ちょうどアルバム作りに入る時期だったりして、スッと自然にはまっていく。
マイクはまだカンザス・シティの若手ミュージシャンだった私をドイツのルフ・レコーズに紹介してくれて、キャシー・テイラーとダニー・ワイルドとの『ガールズ・ウィズ・ギターズ』プロジェクトのアルバムをプロデュースしてくれた(2011)。ルーサーの場合、私のお気に入りのギタリストで、彼のレコードのサウンドが好きだから、『Wild Heart』(2015)のプロデュースを頼んだ。ちょうど(ノース・ミシシッピ・オールスターズの)『World Boogie Is Coming』が出たところで、ぜひ一緒にやってみたかった。『Paper Doll』をプロデュースしてくれたボビー・ハーロウもTHE GOのギタリストで、ある日メールして友達になったのよ」
――『Death Wish Blues』(2023)を手がけたジョン・スペンサーは?
SF「私がジェシー・デイトンとアルバムを作るにあたって、ジョンは自らがアーティストとして独自のヴィジョンを持っているから、2人の音楽性を繋ぐことが出来ると考えたのよ。彼はブルース・エクスプロージョンのアルバムでも2本のギターの個性を際立たせていたし、とてもエキサイティングなサウンドを得ることが出来たわ」
――ジョン・スペンサーを起用するきっかけとなった彼の作品はありますか?
SF「プッシー・ガロアからヒットメイカーズまで、ジョンの音楽はどれも素晴らしいけど、一番のお気に入りはR.L.バーンサイドと作った『A Ass Pocket Of Whiskey』ね。あのアルバムからはずっとインスピレーションを受けてきたし、ジョンと私、セドリック・バーンサイドの3人で『シェイク・エム・オン・ダウン』ツアーをやるきっかけにもなった。ジョンはアーティストとしても人間としても素晴らしいわ」
――ジョン・スペンサーやノース・ミシシッピ・オールスターズは必ずしもトラディショナルなブルースにこだわることなく、さまざまなスタイルを自由に取り入れていますね。
SF「そう、ブルースの伝統を忠実に守ることも大事だけど、それをステップにして、新しい可能性を追求していくことも敬意の表れだと思う。ジャック・ホワイトもジュニア・キンブロウやR.L.バーンサイドから影響を受けながら、独自の音楽をやっている。ブルースがあるからジョンやジャック、そして私が今ここにいるのよ」
Part.2は近日公開予定!

Paper Doll
SAMANTHA FISH
CD(Rounder 888072674882)
グラミー賞にノミネートされた2025年最新作
Samantha Fish オフィシャルHP samanthafish.com/


















