2024 すみだジャズストリートフェスティバル
2024年10月19-20日
文・原田和典 写真・ワシントンD.C.観光局
道を歩くと四方八方から快い響きが聴こえてきて、全身を音楽に包まれているような気分になる。しかも今年は2日間とも、とても気候に恵まれていた。「インディアン・サマー」という言葉を思い出し、スタン・ゲッツやチェット・ベイカーの演奏する同曲へとイメージをつなげた。
下町屈指の音楽の祭典「2024 すみだストリートジャズフェスティバル」が10月19日と20日に盛大に行われた。2010年に第1回が開催されて以来、ミュージシャン/リスナー、ベテラン/若手、プロ/アマチュアが垣根を越えて、「音楽が好き」という一点でひとつになる--------そんな言葉がふさわしいイベントだ。ライヴ開催場所は錦糸町駅周辺を中心に、押上あたりまでの、計28か所。目移り、いや、耳移りしてしまうのは嬉しい悲鳴といえよう。しかも基本的に無料だ。「いくらなんでもそれは申しわけない」と思えば、会場のいろんなところにいる親切なスタッフに募金をすればよい。
いきなり私事になるけれど、自分は上京直後、江戸川区平井の新聞専売所に住み込みで働いていた。そのとき、最も近くにある「都会」が錦糸町だったので、よく専売所の自転車を使ったり徒歩で(電車の切符を買う余裕はなかった)テルミナとかロッテ会館の周辺にいき、鼻を膨らませて「はじめての東京」の匂いを嗅いだものだ。錦糸町という思い入れのある街で、ジャズとその周辺の音楽が楽しめるのには、心がときめく。
出演者が多彩なのもいい。琉球國祭り太鼓(エイサー)あり、民謡あり、吹奏楽あり、ブラジル音楽あり、弦楽四重奏あり、特定のバンドの楽曲をコピーしたバンドあり。元でんぱ組.incの“えいたそ”こと成瀬瑛美、池袋盆BAND(マダムギター長見順)、上田正樹とも交流がある炎のサックス奏者・徳田雄一郎(55分一発録りの組曲を収めたアルバム『God dwells in everything - 全ての物に神は宿る』は必聴!)率いる“RALYZZDIG”、たをやめオルケスタ、TRI4THなどワンマンでも引く手あまたであろう面々が集っているのもいい。
先日取材をしたサニー・サムターとクリス・グラッソ(fromワシントンDC)のコンビだが、ふたりは19日、「錦糸公園 飲食特設ステージ」に登場した。サポートに加わったのは、カナダ出身・日本在住のベース奏者であるブレント・ナッシー。巨匠レイ・ブラウンにも学んだ堅実なプレイヤーだ。クリスとブレントがデュオでアントニオ・カルロス・ジョビン作「ワンス・アイ・ラヴド」などを演奏、続いてサニーがやはりジョビン作の「ジンジ」を歌う。英語の歌詞をその場に応じて変えながら、時に打楽器的なスキャットも織り交ぜてのパフォーマンスは、私にウィリー・ボボが歌唱する同曲を思い出させた。ここで観客からの拍手はひときわ盛大になり、そのまま乗りの良いワルツ「ベター・ザン・エニシング」へ。ボブ・ドローやアル・ジャロウなど男性歌手の印象が強いナンバーだが、女性歌手の声で聴くのもまたオツなもの。あっという間に時間が経ってしまったな、もっと聴きたい、という気持ちを残して、サニー、クリス、ブレントはさわやかにパフォーマンスを終えた。
サニー・サムターとクリス・グラッソ(fromワシントンDC)の取材記事は後日公開予定です。お楽しみに。