2018.11.19

【特集:伝えておきたいブルースのこと】㊿生きているブルース

2010年代のブルース・トゥデイ
ミシシッピ州グリーンヴィルのブルース・フェスティヴァル。2014年筆者撮影

 90年代に次々とカムバックしたブルースマンたちの多くは世を去り、まだ健在の人たちも高齢化が進んでいる。CD全盛期はずいぶん前に去ってしまい、ブルース関連のリリース量も減った。悲観材料はいろいろあるけれど、それでもブルースは死なない、という思いが強い。

 2014年9月にアメリカ南部ミシシッピ州グリーンヴィルを訪れた。そこで行なわれた野外ブルース・フェスティヴァルで黒人たちはソウル・ブルース・シンガーたちのステージを家族で一緒に楽しんでいた。彼らを見ていたら、極東の国で「ブルースはもうだめだ」などと口にすることの無意味さを思い知った。南部の黒人の間ではブルースはそこにあるべきものとして、存在していた。生活の一部のように根付いていた。それを確認できたことが、うれしかった。

 一方で、市場に現れるパッケージ化されたブルースに危機感をおぼえることもある。バディ・ガイの2013年作『リズム&ブルース』は注意が必要なアルバムだ。実績のある高齢ヴェテラン・ブルースマンの健在ぶりを見せつけるアルバム、というのが世間の評価だった。ギター・ミュージックを聴きたい人はおおいに満足したことだろう。しかし優れたブルースが有する奥行き、つまりはそこから透けてみえる社会や文化や風俗や精神が、近年のバディの作品からはすっぽりと抜け落ちてしまっているように、私は感じる。ギターを前面に出した作品にこの種のものが多いようだ。

 1936年生まれ、バディよりも3年早く生まれたボビー・ラッシュの2012年作『ダウン・イン・ルイジアナ』は、ブルースの伝統を守りつつ、新鮮さに満ちている。ボビーは白人客の多い、大きなブルース・フェスにも出演するが、黒人客主体の南部のサーキットも回っている。彼には聴き手の顔が見えているに違いない。自分の立つ場所が分かっているから、作品を通して聴き手とコミュニケーションが取れている。これがブルースという音楽であり、文化のあり方ではないだろうか。

 ギターが主体になっているものが悪いわけではない。R・L・バーンサイドやジュニア・キンブロウの子や孫たちの演奏するブルースは、ラウドで歪んだギター・リフが暴れ回り、ワウワウ・ペダルも踏み込まれている。ミシシッピのヒル・カントリーの大地にしっかりと根を張り、同地の伝統的なブルースを自然体で受け継いでいる彼らは、ボビー・ラッシュと同じく、自分たちの居場所が分かっている。南部がブルースの未来を握っているのだろうか。

 ブルースがグローバル化しているのは確かだ。世界中にブルースを歌い演奏する人たちがいる。各地でブルースが花開くのは素晴らしい。それでもあえて言おう。アメリカン・ブラック・ミュージックとしてのブルースに注目し続けたい。生きているブルースを心から味わいたい

Buddy Guy / Rhythm & Blues
Buddy Guy / Rhythm & Blues(RCA/Silvertone 88883 71759-2) [2013]
豪華ゲストを招いた現時点での最新作

Bobby Rush / Down In Louisiana
Bobby Rush / Down In Louisiana(Deep Rush / no #) [2012]
1950年代からキャリアを積み上げて来たボビー・ラッシュ。常に時代の流れを意識しながら、2000年代に入っても快調に新作を発表し続けている

特集:伝えておきたいブルースのこと50
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