2023.9.11

【LIVE REPORT】上田正樹 R&B BAND × ブルーズ・ザ・ブッチャー/7月20日 渋谷クラブクアトロ

50年来、ソウル、R&B、そしてブルースを歌い、歩み続けてきた“キー坊”のバンドと“ホトケ”のバンドが半世紀ぶりに共にステージに立つ。これは目撃しなければと、7月の夜、渋谷に向かった。この日のタイトルを借りるなら「熱い魂と強い魂」を肌で感じたかったのだ。

70年代の同じ時期に現れ伝説を作った上田正樹とサウス・トゥ・サウス、ウエストロード・ブルースバンド。そのリード・ヴォーカルだった2人が50年経った今もブルースやソウルを歌い続けているというだけでなく、変わらず前を向いてそれぞれ自分のバンドを率いている。そこにはソロでの共演とはまた違う想いがある。

◆グルーヴの波に乗る
blues.the-butcher-590213

先攻は今年10枚目のアルバム『フィール・ライク・ゴーイング・ホーム』をリリースしたblues.the-butcher-590213。

「Forty days !」

ホトケのシャウトがクアトロに響く。マディ・ウォーターズの“Fourty Days & Forty Nights”だ。ギターでもなくハーモニカでもなくヴォーカルでの幕明けに、歌い続けてきた誇りも一緒に受け止めたようでうれしくなる。
ステージは、Newアルバムのテーマでもあるマディのナンバーを中心に進んだ。ホトケのスライド・ギターにKOTEZのハーモニカがからみつき黒く艶めく “Honey Bee”から、ボビー・チャールズ作の“Why Are People Like That”まで、曲前のホトケのちょっとした解説が、ブルースをぐっとこちらに引き寄せてくれる。そういえばウエストロードのころからライヴに新たなドラマをもたらしてきたのは、ホトケのちょっとしたひと言だった。

もう一人のフロントKOTEZはこの日、リトル・ウォルターの“Can't Hold Out Much Longer”と“Tell Me Mama”を。ハーモニカの息づかいから生み出されるエモーションが客席とリンクしてみんなを揺さぶっていく。

それにしても、この“Tell Me Mama”といい、 “Baby, Please Don't Go”といい、なんて気持ちがいいんだろう。クアトロの空間がスウィングしている。

沼澤尚のいつも以上におおらかなドラミング。ポーカーフェイスの中條卓がベースで美しい波を起こし、波をつかまえたKOTEZがサーファーのようにぐんぐん乗っかっていくとホトケも反応。ちょっと遠慮がちだった客席も、自然と身体が揺れる。さらにそれを目ざとく察知したKOTEZが和ませ、笑わせ、一人ひとりの背中をブルースの大海に押していく。このリレー、これがバンドなんだ。

がっががっががっがとグルーヴに呑み込まれていく“I Feel So Good”で大団円かと思いきや、ラストは “Mannish Boy”。畳みかけるような「アイマメ~ン!」にあちこちから、Yeah!と声が上がる。これがブルース・バンド!と胸を張るブッチャー。その強さを見せつけた。

◆ソウルはこころがすべて。
上田正樹R&B BAND

後攻は、上田正樹R&B BAND。

1曲目から、“キー坊”上田正樹が丁寧にメンバーを一人ひとり紹介していく。一人ひとりが大切なソウル・ブラザー、ソウル・シスターであることの表明だ。そしてさりげなく
「ソウル・シンガー上田正樹です」
と自己紹介。さぁドラマが始まる。

“Soul Man“ “Hold On, I'm Comin” “Stand By Me” と組曲のようにこれがソウルだ!とも言えるおなじみのスタンダードが演奏されていく。耳馴染んだ曲も、このバンドと上田正樹のグルーヴだから新鮮だ。

さまざまなレジェンドの名前たちが折り込まれたオリジナル曲“Soul To Soul”で上田正樹は「歌い続けてきた 心がすべて」と歌う。一口にスタンダードと言うけれど、全てがここまで歌い続けてきて今だから歌いたい大切なナンバーなのだろう。そしてそんなキー坊の一挙手一投足にバンド全員が全身全霊を傾けている。ステージの上に信頼の糸が見える。

〈陽よ昇れ(Let It Shine On)〉では、温もりが膨らんでいくのに合わせ自然に手拍子が起きる。こちらもブッチャー同様、樋沢達彦とマーヴィン・レノアーによるクールでファンキーなリズム隊は強力。そこに堺敦生のキーボードがブレンドされると世界は拡がり、Yoshie. Nのふくよかなコーラスが彩りを加える。見るたびに歌声に存在感を増すYoshie. Nは、この夜、ティナ・ターナーに捧げた“Proud Mary ”でエナジーを爆発させた。そして有山じゅんじの歌とギターには力んだところが一つもない。上田正樹が“世界自然遺産”と呼ぶ50年来の盟友らしく出過ぎず引きすぎず。でも聞こえる音も歌声も全部、有山さんだ。

アンコールは両バンドのメンバーが揃っての “Knock On Wood”。そして “The Blues Is Alright”。キー坊が歌う。ホトケが歌う。ずっと若いKOTEZやYoshie. Nが笑顔でパワーを注ぎ込む。ホトケがキー坊のバックで有山じゅんじと一緒にうれしそうにギターを弾く姿を観るとは想像もしなかった。時間は止まってはいない。時間を共にできた歓びと一緒に、客席も心からのオーライ!で応える。

決して懐かしさが先立つのではない夜は、こうしてポジティヴなエネルギーをたくさんもらって終わった。思い出にとどまっているのは、むしろ客席にいた私たちの方なのかもしれない。バンドはもっと遠くを観ている。まだ何かが始まる予感がする。だからこそ日本にこんなに熱く、強いバンドがいることを、もっと世代を超えて伝えたい。

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"Let The Good Times Roll !!!"
上田正樹 R&B BANDとブルーズ・ザ・ブッチャーの熱い魂と強い魂の夜
上田正樹 R&B BAND × blues.the-butcher-590213

2023年7月20日(木)
渋谷クラブクアトロ

【出演者】
■上田正樹 R&B BAND
上田正樹 vo/g、有山じゅんじ g/vo、樋沢達彦 b、堺敦生 p/key/cho、
Marvin Lenoar dr/cho、Yoshie.N vo/cho

■blues.the-butcher-590213
永井ホトケ隆 vo/g、沼澤尚 dr、中條卓 b、KOTEZ vo/harp

写真提供:スカイハイ・ソウル

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