[取材・文]井村猛(ブルース&ソウル・レコーズ)
[取材協力]キングレコード
5月18日、代官山《晴れたら空に豆まいて》にて、映画『ジェイムズ・ブッカー/愛すべきピアノ・ジャンキー』の公開前特別イヴェントが開催された。出演は久保田麻琴さん、ピーター・バラカンさん、小島良喜さんという、ブッカーとニューオーリンズ音楽に造詣の深い面々だ。会場には100人以上が集まり満員御礼。この日限定のスペシャル・メニューとして、チコリコーヒーと久保田さんの友人であるロニー・バロン直伝のレシピで作られた特製ガンボが販売され、否が応でもニューオーリンズ気分が盛り上がる。

MCの久保田さんの挨拶でイヴェントはスタート。第一部は、映画公開に先駆け、久保田さん自らが演奏や楽曲シーンを中心に編集した約30分のダイジェスト映像上映だ。この日のために特別に音響のリマスタリングを施したという。本作のハイライトであるブッカーの圧倒的なライヴ映像やドクター・ジョンの登場シーン、ニューオーリンズの風景に彼の楽曲が重なる場面など、ステージの大きなスクリーンから溢れるピアノの魔力に場内は一気に引き込まれた。

休憩を挟んだ第二部は、バラカンさんと久保田さんによる「DJ&トーク」で、交互に曲をかけながらディープな音楽談義が繰り広げられた。
先攻の久保田さんの1曲目はアート・ネヴィルの“Rockin' Pneumonia And The Boogie Woogie Flu”。ヒューイ・スミスの名曲だが、コズィモ・マタッサのスタジオで録音されたトラックを流し「彼の歌が好きだ」と久保田さん。後攻のバラカンさんは、ブッカー自身が書いた“So Swell When You're Well”のジョン・クリアリー版を選曲。バックはブッカーの録音にも参加したジェイムズ・シングルトンとジョニー・ヴィダコヴィッチだ。クリアリーが地元のメイプル・リーフ・バーに泊まり込みでペンキ塗りをしていた頃、ブッカーも居候していたというエピソードをバラカンさんが語ると、久保田さんは1976年頃にトゥールーズ・シアターの幕間でブッカーを観た体験を披露。「彼は街中から総スカンをくらっていたが、アラン・トゥーサンにブッカーが今いると知らせたら飛んできた」と振り返る。また彼が「ブラック・リベラーチェ」と自称するほど愛したリベラーチェにも話が及び、「ゲイの要素もあったからブッカーが気に入っていたのかも」とバラカンさん。

久保田さんの2曲目はドクター・ジョン“Such A Night”。ここで久保田さんは、ザ・バンドの『ラスト・ワルツ』ライヴの現場に居合わせた驚きの体験を明かす。当時オレンジ・カウンティ・ブラザーズのレコーディングをプロデュースするためアメリカ滞在中だった久保田さんはそのライヴの取材機会を得て、サンクスギビングのターキーの最後の一切れにありつきつつ、彼らと共演したドクター・ジョンを目撃、それを機にニューオーリンズ音楽に目覚めたそうだ。対するバラカンさんの2曲目はリー・ドーシー“Freedom For The Stallion”。この曲はアラン・トゥーサンがドーシーのために書いた名曲でボズ・スキャッグスも歌っているものだ。本作のリリー・キーバー監督にバラカンさんがインタビューした際、彼女は「リー・ドーシーなどニューオーリンズのミュージシャンがいま話題にならないのが寂しい」と語っていたという。ここでドクター・ジョンの72年のアルバム『Gumbo』の話になり、いかに衝撃的だったかを二人は熱く語り合った。
最後に久保田さんが選んだのはウィー・ウィリー・ウェイン“Travellin' Mood”。コズィモ録音のホーボーの歌に、バラカンさんは「初めて聴いた、口笛が上手いね」と感嘆し、久保田さんも「ファンキーでぶっとい音でしょ」と笑う。そしてバラカンさんによる〆の1曲は、これまたトゥーサン作、主役ジェイムズ・ブッカーの76年ドイツでのライヴ録音版“Life”。久保田さんが「ヨーロッパだと大喝采を浴びていた」と語ると、「ヨーロッパでは黒人が人間扱いを受ける。マイルス・デイヴィスやルイ・アームストロングもそうだったね」とバラカンさん。「ヨーロッパでのジェイムズ・ブッカー」は映画でも大きく取り上げられている重要なトピックだった。
「山岸潤史の相棒でニューオーリンズに4年住んでいた最高のピアニスト」という久保田さんの呼び込みでピアニストの小島良喜さんが登場。ニューオーリンズの印象を訊かれると、「夜9時のライヴの連絡が8時半にきて、全員揃ったのは11時すぎ。漫画みたいな街だった」というエピソードを語り観客から笑いが起きた。そしてグランドピアノ一台による小島さんのミニ・ライヴが始まった。

オープニングの“On The Sunny Side Of The Street”からブッカーを彷彿とさせる演奏で一気に観客を惹きつけていく。続けてパーシー・メイフィールドの名曲“Please Send Me Someone To Love”、ショパンをアレンジした“Blue Minute Waltz”とブッカーのレパートリーを披露。彼への敬意を感じるピアノの一音一音に思わずため息が漏れる。そしてニューオーリンズ調にアレンジしたセロニアス・モンク“Well You Needn't”へ。彼のアルバム『embrace 2』に収録されたピアノが疾走する軽快なナンバーだ。一転、同じく『embrace 2』収録のアラン・トゥーサンの美しいバラード“With You In Mind”では情感溢れるピアノが静かに店内を満たしていく。ラストはドクター・ジョンでお馴染みの“Iko Iko”。キメの部分に観客が手拍子で応えると、小島さんも客席に向かって笑顔を浮かべる。わずか6曲ながら、ブッカーの十八番からトゥーサン、ドクター・ジョンまで、ニューオーリンズ感に溢れた至高の演奏に大きな拍手が送られた。

最後は3人がステージに上がり、5月29日からロードショーとなる映画を告知してイヴェントは終了。ダイジェスト映像から、現地体験を交えた濃厚なトーク、小島さんの生ライヴまで、充実した時間に集まったお客さんは皆満足そうな顔で帰路についた。さあ、次に我々が目撃すべきは映画本編だ。「愛すべきピアノ・ジャンキー」とスクリーンで対峙する瞬間が待ち遠しい。ぜひ多くの方に劇場へ足を運んでいただきたい。

『ジェイムズ・ブッカー 愛すべきピアノ・ジャンキー』
5月29日(金)よりシネマート新宿、恵比寿ガーデンシネマ、アップリンク吉祥寺ほかで全国一般公開決定!
監督:リリー・キーバー/出演:ジェイムズ・ブッカー、ドクター・ジョン、ハリー・コニックJr.、チャールズ・ネヴィル、アラン・トゥーサン、アーマ・トーマス、ヒュー・ローリー、ジョー・ボイドほか
2013年/アメリカ/98分/1.78:1/原題:Bayou Maharajah/日本語字幕:小山朋子/字幕監修:ピーター・バラカン/配給・宣伝:キングレコード ©2016 BAYOU MAHARAJAH,LLC
公式サイト:james-booker.com/
公式X:x.com/JB_piano_junkie




















