2021.1.21

【インタヴュー・アーカイヴ】シル・ジョンスン

シル・ジョンスン

本誌でこれまで数多くのアーティストに取材を行ってきたが、2014年7月に来日したシル・ジョンスンのインタヴューは特に印象深いもののひとつだ。ビルボードライブ東京の最終公演後に楽屋でという話だったのに彼がなかなか姿を現さず、打ち上げムードのメンバーたちに交じり、終電を気にしながら楽屋で待ち続けたのを覚えている。2015年2月号(No.121)に掲載されたその真夜中のインタヴューと、彼がプロデュースしたオーストラリア人女性シンガー、メロディのアルバム発売時のインタヴュー(2011年6月号 No.99掲載)をここでお届けしたい。

なお、この時彼が語っていた新録アルバムとボックス・セットは今に至るまでリリースされることはなかった。昨年7月、自身の誕生日にコメントを寄せたのを最後にフェイスブックの書き込みも途絶えており近況が気になるところだ。アルバムの発売、そして再び帝王の元気な姿が拝める日を心待ちにしたい。

 

シル・ジョンスン・インタヴュー

「私の根っこにはいつもブルースがあったんだ」

[取材・構成・文・写真]井村猛(本誌編集) 取材協力/ビルボードライブ東京

97年のパークタワー以来17年ぶりとなる来日を果たしたシカゴ・ブルース&ソウル帝王、シル・ジョンスン。ボビー・ラッシュとの共演でまさかのフジロック参戦、翌日からビルボードライブ東京で二晩連続単独公演を行うというハード・スケジュールにもかかわらず、本誌のためならと取材が実現した。最終ステージ後、サイン会も終え彼が楽屋に戻ってきたのが(2014年)7月29日午後11時50分。来客との歓談が落ち着き、やっと取材を始めた頃には日付が変わっていた。御年78歳、さぞ疲れているのでは、と思いきや「さあ、やろう!」と満面の笑みでソファーに腰掛けた。

 

――素晴らしいショウでした。

シル・ジョンスン(以下SJ)「おお、ありがとう!」

――フジロック・フェスはいかがでしたか?

SJ「グレイトだったね。雨に降られたけどまったく問題なかった」

――新作アルバムを制作中とお聞きしましたが、録音はもうすべて終えたのですか。

SJ「10月には出す予定で、まだ何曲か録音しなくちゃならない。全部新曲だ。カヴァーは1曲もないぞ!」

――先日メールで音源を送っていただいた新曲〈アイム・ルーツ・トゥ・ザ・ブルース〉、素晴らしいです。

SJ「気に入ってくれたか? そりゃあ良かった。こう、木があるだろ? そんで枝がこうあって、幹がこうあって、根っこがここだ。根っこを切っちまうと木は倒れてしまう。枝が綺麗なのは根っこから受け継いでるから。私は根っこを守りたいと思ってる。あれはすべてのミュージシャンへの、若い黒人たちへの私からのメッセージなんだ。若い連中は私のスタイルをコピーしている。古い曲のピアノやホーンのフレーズを使っている。だから私たちの世代はリズム&ブルースを守っていかなくちゃならない。もちろん、ソウルも。ソウルはフィーリングだ。I love you, I love you, I love you~♪、こういう気持ちがソウルなんだ!」

――つまりあなたが生涯を掛けてやり続けてきた音楽がルーツだ、ということですね。

SJ「そうだ、ぜんぶそこからやって来た。ローリング・ストーンズもハウリン・ウルフから始めたし、ビートルズもマディ・ウォーターズが好きだった。ディープでヘヴィなブルースがみんな大好きだ。私の大元はブルースだ。ジョン・リー・フッカー、ビリー・ボーイ・アーノルド、ジミー・リードとか、たくさんのブルースマンと一緒に演って、レコードを作った。それからリズム&ブルースだ。Teardrops, teardrops~♪(フェデラル録音〈ティアドロップス〉を歌い出す)でも、私の根っこにはいつもブルースがあったんだ」

――ポピュラー音楽のルーツがブルースにあると思っていない若いミュージシャンも多いのではないですか。

SJ「そうだ、だから私がここにいるわけだ! Goodie goodie good times~♪(E.P.I.録音〈グッディ・グッディ・グッド・タイムズ〉を歌い出す)これなんかジャジーでブルースだろ。ヴェリー・ファンキー・ジャジー・ビートだ! こいつもブルースから生まれた。根っこを生かしておけば木は成長を続けるわけだ。ラップもそうだ。俺をリッチにしてくれたしな」

――カニエ・ウェストやウータン・クランなどがあなたの曲をサンプリングしたからですね。

SJ「Shame on a nigga who try to run game on a nigga~♪(ウータン・クラン〈シェイム・オン・ア・ニガ〉を歌い出す)ハハハ!」

――サンプリングしたアーティストを訴えてましたね。

SJ「当たり前だ、私の曲を使ったら金を払ってもらわないとな。本を買うなら金を払う、同じことだ。ニンテンドーも〈ディファレント・ストロークス〉を使ってるから、今度電話してやるつもりだ」

――あのゲーム会社の任天堂ですか?

SJ「そうだ。レディ・ガガ&ワーレイもあの曲を〈チリン〉って曲で使っているぞ」

――ところで、近々ドキュメンタリー伝記映画『Any Way The Wind Blows』が公開されると聞きましたが、映像はもうご覧になりましたか?

SJ「1月に公開予定なんだ。全部じゃないが少し見せてもらったよ。2パック……いや、待て、スヌープ・ドッグだ。彼とかウータン・クランのRZAとかが喋ってる。あれはいい映画になるぞ。結構シリアスな内容だしな。私が生まれ故郷(ミシシッピ州ホーリー・スプリングス)に帰るところも撮ってある」

――日本でも公開して欲しいです。ところで、今回ライヴ中によくPヴァイン・レコードについて言及されていましたね。何か思い入れがあるのですか。

SJ「Pヴァインは私の音楽を日本でビッグにしてくれたんだ。小さな会社だけどよく宣伝してくれたよ」

――あなたがプロディースしたオーストラリアの女性シンガー、メロディのアルバム『リバース・オブ・ソウル』(2011年)もPヴァインで出ていましたね。

SJ「ああ。アルバムが出た後ヨーロッパをツアーしたらすごく盛り上がったね。日本にも行きたかったのだけど、あの地震と津波があって諦めた。もう彼女は結婚してオーストラリアに戻ってしまったけどな。特別なシンガーだ。私は自分のレーベルで娘のシリーナ、ヴィッキー・マルチネス、メロディ、Ms.マックの4人の女性シンガーをプロデュースしている。みんなオールド・タイムな音楽が好きで、私に凄く合っている」

――彼女たちのアルバムを制作する予定は?

SJ「私が曲を書いて『R&Bディーヴァズ・フロム・ディファレント・カルチャーズ』て感じのアルバムを作ろうと思ってる。黒人、メキシコ人、オーストラリア人、白人。違う文化を持った4人の女性シンガーがR&Bをやる、面白いだろ? どう料理すればいいか自分には分かっている。ボックス・セットにするから日本でも出してくれよ。金になるぞ(笑)」

――あなたは世界各地にツアーに出られていますね。それだけ精力的に活動出来る秘訣はなんですか?

SJ「今年はあとサンディエゴ、フランス、スイス、スペインにも行く予定だ。長生きの秘訣か? ウィスキーを飲まない、女もほどほどにってことだな」

――最後に日本のファンにメッセージを頂けますか。

SJ「ハロー、ニッポン。ワタシハ、アナタヲ、アイシテマス! 日本には77年から来てるけど、お客さんも素晴らしいし、何度でも来たいね。今度は新曲を披露したい。新作のタイトルは『ルーツ・トゥ・ザ・ブルース』にするつもりだ。このアルバムでみんながルーツに興味を持って欲しいな。ブルースがルーツだ!」

 

この5日間ほとんど眠っていなかったというシル。取材中に何度も船を漕ぎ出すのだが、もう止めましょうかと訊くと「まだ大丈夫だ!」と言い張ってきかない。約束はきっちり守る。その男気に感動した帝王との謁見であった。

(『ブルース&ソウル・レコーズ』2015年2月号 No.121掲載)

ドキュメンタリー伝記映画『Any Way The Wind Blows』トレイラー


 

帝王が仕掛けるソウル・ミュージックの復興——シル・ジョンスン、メロディ『リバース・オブ・ソウル』を語る

[取材・構成]井村猛(本誌編集)

シカゴ・ブルース&ソウルの帝王シル・ジョンスンが自身のレーベルTwilightからデビューさせたオーストラリア人女性シンガー、メロディ。さすがシルが惚れ込んだだけあって、20代前半のその溌剌として艶やかな歌声は60~70年代を彩ったソウル・ディーヴァたちを思い起こさせてくれる。だが、本作で注目すべきはシルのギターを筆頭に、ホーン、ストリングを含む総勢31人のミュージシャンたちによる生バンド・サウンドだろう。本作制作に掛けた思いをシル自ら語ってもらった。

 

―― 2009年、あなたがオーストラリ・ツアーをしたときに彼女がバック・シンガーを務めたのがきっかけだったそうですね。

シル・ジョンスン(以下SJ)「若い白人の娘が古いソウル・ミュージックを好んで歌うのが気に入ってね。シンガーとして、彼女に魅力があると思った。それでアルバムを作ることにした。私は教師のようなもので、オールド・スクールな“黒人目線”で、彼女にソウルとはどういうものなのか教えることが出来たし、彼女の中からそれを引き出すことも出来たと思う。彼女は素晴らしい生徒だったよ。最もピュアな形の“ソウル”や“フィーリング”を彼女は学んでいったんだ」

――あなたは今回のアルバムを“Twilight/Twinightレーベルの復活第一弾”と位置付けているそうですが。

SJ「そう、これは復活なんだ。オリジナルのTwilightはもともと私のレーベルだった。ところが40年前に盗まれてしまい、盗人達によってTwinightに変えられてしまった。しかし、2007年7月10日、合衆国連邦裁判所イリノイ州北部管区東部地区のジョン・F・グレイディ裁判長閣下のお陰で、TwilightとTwinight両方のレーベル名と私のマスター全てを取り戻すことが出来たんだ」

――今後どういったリリースを考えているのですか?

SJ「メロディの他に、娘のシリーナ・ジョンスン、シアトル在住ラテンアメリカ系シンガーのヴィッキー・マルティネスをすでに録音している。ヴィッキーはメロディのようにオールド・スクールな感じなんだけど、少しスタイルが違うね。今年の後半には、私とシリーナ、メロディ、ヴィッキー、それに何人かの男性シンガーとで、“古き良き60年代”の曲をカヴァーしたボックス・セットをリリースしたいと考えている。黒人、白人、ラテン系問わず、若い世代がこの偉大な音楽を受け継がなくてどうするんだ? これはきっと素晴らしいものになるね!」

――今回のアルバムのタイトルを『リバース・オブ・ソウル』としたのは?

SJ「最近、こういうタイプの音楽をちゃんと出来るアーティストやプロデューサーがほとんどいなくなっただろ? 私自身とプロジェクトにかかわった若者たち、私のオリジナル・バンド・メンバーの何人か、バーナード・リード、トム・ワシントン“トム・トム”、ウィリー・ヘンダースンといったアレンジャーたち……みんなでこういう作品を作り上げたかったんだ」

――トラックは今回すべて新しく録音したのですか?

SJ「そのとおり! 2009年中頃から何ヶ所かのスタジオで新たにレコーディングした」

――数々のソウル/ブルース名盤を支えた名プレイヤーたちが大勢参加していますが、よくこれだけ集められましたね。

SJ「私が優れたオーガナイザーだからさ。その点、他のベスト・ミュージシャンと並び、私は日本だけでなく世界中で高い評価を受けていると自負している」

――録音はどんな感じで進めたのですか?

SJ「ほとんどの曲をベーシックなリズム・セクションと彼女が一緒にスタジオに入って録音した。ホーンなども入れたバンド全員揃って録った曲もいくつかある。ストリングスは後から被せたよ。シンセもドラム・マシーンも無し、すべて生音だ。これが、オールド・スクールのやり方だ」

――録音機材にもこだわりがあったとか。

SJ「60年代、70年代の古い機材を使って、アナログで録音したんだ。“オリジナル・オールド・サウンド”を目指していたからね。アナログで録音すると、もっともピュアで、暖かいサウンドになる。それが、このアルバムの目指したところだった。私が“伝説のシル・ジョンスン”だということを忘れないでくれよ! 私はまだまだ健在だし、私のような人間はもうほとんど残っていないだろ?」

――このアルバムではソウルの名曲が数多くカヴァーされていますね。ジャッキー・ロス〈セルフィッシュ・ワン〉、グウェン・マクレー〈ロッキン・チェア〉、アネット・ポインデクスター〈ウェイワード・ドリームス〉、〈ママ/マムス〉、タイロン・デイヴィス〈ターン・バック・ザ・ハンズ・オブ・タイム〉、バーバラ・アクリン〈ラヴ・メイクス・ア・ウーマン〉、そしてあなたの〈ハーフ・オブ・ラブ〉や〈キャント・ノーボディ・ストップ・ミー・ナウ〉など。選曲はあなたが?

SJ「そう、彼女のために私がすべて選んだ。オールド・スクール・アーティスト、特に“シカゴ・ソウル・ピープル”の古い曲を演りたいと彼女が熱望したからね。そうすれば、彼らの子供や子孫に印税が入るしね」

――今回、彼女のために書き下ろした曲は?

SJ「〈メロウ・ダウン・イージー〉だけ、今回彼女のために書き下ろした。彼女の名前と、オーストラリアという地球の裏側(down under)からやってきたことをもじったんだ。この曲で私はハープも吹いている。〈イッツ・ア・ブランニュー・デイ〉と〈アイム・ジャスト・ア・フリーク・フォー・ユー〉はもともと私が70年代に録音したことのある曲だが、ずっと未発表だった。これらの曲を私がギターで弾いているのを聞いて、彼女がたちまち気に入ってしまってね。それで今回録ることにしたんだよ」

――どの曲もアレンジが素晴らしいのですが、アレンジは誰が? 何かコンセプトがあったのですか?

SJ「ほとんどのリズム・アレンジは私とバーナード・リードがやった。他にトム・ワシントン、ウィリー・ヘンダースン、ジーン・バージ、ラリー・ブラシンゲインがアレンジャーを務めた。正統、オールド・スクール、奇をてらわない。ただ本当に良い音楽にするだけ。そういうことをコンセプトにして纏めていった」

――今回のアルバムはオールド・スクールなソウル・サウンドが今日でも新鮮であることを証明していると思います。最近のソウルやブルースのシーン、特にシカゴのシーンについてどう思いますか?

SJ「もっと多くのミュージシャンがオールド・スクールなサウンドに立ち帰ったほうが良いと思うよ。それが出来る能力があるならね。そういう音は、今ではすっかり廃れてしまって、活力なくなっている。私のような人間がそれをいつまでもフレッシュに保ち、Pヴァインのようなレーベルがプロモートしていかなくてはならないね。実は私自身も、ここ2年の間に新たな展開があった。誰も想像してなかったぐらい白人の若者たちが私の音楽に興味を持つようになったんだ。ここ最近、シカゴとニューヨークで演ったショウはすべてソールドアウト、しかも観客は30歳よりも下がほとんどだったよ。私のアシスタント、キャンディス・ブリッグスがこの状況を記録しているから証明してくれるさ。彼女はここ最近のショウ全てに来ていたのだけど、本当に度肝を抜かれたと言ってたね。超満員だったし、2時間ぶっ通しのショウが終わっても、観客はまだ演れ演れと言うんだから。本当の話だ! こういう活動がオールド・スクールのサウンドをいつまでもフレッシュにしておくのさ!」

(『ブルース&ソウル・レコーズ』2011年6月号 No.99掲載)

 

MELODY & SYL J'S NEW OLD SOUL BAND

The Rebirth Of Soul

(Pヴァイン PCD- 93413)

 

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