2023.10.6

【LIVE REPORT】なにわブルースフェスティバル2023 それぞれのルーツが交わる「なにわグルーヴ」の2日間/2日目

なつかしい×あたらしい なにわブルースフェスティバル2023
2日目/2023年9月10日(日) 大阪なんばHatch

今年も開演前にはロビーで、NPOなにわブルージーの玉置賢司と、音楽プロデューサーも務める有山じゅんじ、清水興によるミニ・ライヴが。2日目は、有山の〈ぐるぐるぐる〉も飛び出して、集まった人たちもすっかり充電完了だ。


◆ちなげ

オープニングアクトの不安など吹っ飛ばし、自ら心をオープンにして客席に飛び込んでいく。「かっこいいおかあちゃんでいたいんや」と母親一年生らしい不安やSNSの友人関係のもろさを歌ったりと、正直に生きていきたいという強い気持ちが、世代を超えて伝播していった。


◆ComplianS(佐藤タイジ/KenKen)

シアターブルックなどで活躍する佐藤タイジとKenKenによるギター&ベースのファンク・デュオ。2022年にリリースした1st『GLOBAL COMPLIANCE』から〈Funky Messiah〉、そしてプリンスの〈パープル・レイン〉を。たった2人でたった2曲なのにステージが熱量の高い豊かなエネルギーでいっぱいになる。「先人の教えは大事」「いろんな音楽の上に立っているのだから」とルーツを尊重しつつエネルギッシュに未来への扉を開いていく2人にはフェスの担い手としての期待がかかる。


◆三宅伸治&the spoonful(高橋“Jr.”知治/茜/KOTEZ)

最初の一音が聞こえたその瞬間に、皆が、わーっと立ち上がる。〈ベートーベンをぶっ飛ばせ〉では三宅が客席をひとめぐり。〈Jump〉では皆も思いきりジャンプ! おなじみのナンバーながら“いつもの”と思わせない鮮度も彼らの力量だ。上の世代からも下の世代からも信頼される三宅を中心に、ますますライヴ・バンドとして安定してきた。


◆blues.the-butcher-590213(永井“ホトケ”隆/沼澤尚/中條卓/KOTEZ)

山岸潤史をゲストに“Mojo Boogie”からスタート。“Forty Days & Forty Nights”を歌い終わったホトケに「ウエストロードの頃とイントロちがうよ」と山岸が苦笑いすると「今のが原曲」とホトケが笑う。1曲のブルースが一瞬でこの50年を行き来する。そして艶のあるチョーキング、ツボを得たリフ。その都度、山岸を見つめるうれしそうなホトケの表情が印象的だ。ホトケがギターを持ち替えての“Honey Bee”。ぐんぐんビートをつかまえていくKOTEZの“Too Late”をはさみ、“Mannish Boy”へ。必ずしもマディ・ウォーターズになじみのないお客様もいるだろう。でも誰の何の曲かは知らなくても、アメリカに行ってもなかなか聴くことのできない最高のブルースをあの時浴びたんだと、きっと感慨深く思い出すはずだ。


◆有山岸+大西ユカリ

山岸はアコースティック・ギターに持ち替え、再びステージへ。大忙しである。彼に限らず、今年は両日出演するアーティストも多かったが、決して単なるセッションにはならない。お互いのルーツもテクニックもリスペクトし合うアーティスト同士が、1+1=2以上のさまざまな表情を見せてくれた。

〈そろそろおいとこ、Careless Love〉から始まると、すぐに2人の音色で空間の色も空気も変わる。「人類で勝てる奴はいない」と有山じゅんじのマイペースっぷりにお手上げの山岸。だがそれもお互いが安心して心を預けられるからこそだろう。

この夜はそこに大西ユカリが登場。「MC短め、スカート短めですよ。有山岸ユカリです」とにっこり微笑む衣装でスパンコールがきらめく。このメンバーでほかほかの新作『Laila』から〈ほんとの恋のブルース〉を聴かせてくれたのがうれしかった。さらにもう一曲は〈天王寺〉を。――これがわたしのふるさと天王寺――大阪の人には待ってました!の1曲なのだろう。不思議なものでお客さんの拍手の温もりもそれまでとはまたひと味違う。さらにそこに木村充揮が現れ熱気も最高潮に。“なにわ”という言葉が生んできたカルチャーの奥深さを感じた瞬間でもあった。


◆BIG HORNS BEE+佐藤竹善 井上央一/長尾琢登

“濃い”出演者と比較して佐藤竹善は謙虚なせりふを口にしたが、バンドとの息は前年以上にぴったり、時間は濃厚だった。〈雨に唄えば〉や、サッチモ風スキャットも交えての〈オン・ザ・サニー・サイド・オブ・ザ・ストリート〉の鮮やかな演奏に大きな拍手が起きて、いい音楽を聴いたな、と多くの人はそんな気持ちだったのではないだろうか。音に包みこまれるような多幸感とスリルはとりわけビッグ・バンドの醍醐味。会場に足を運んだ人へのプレゼントだ。


◆ザ・たこさん

結成30周年を迎え、今年は記念ライヴが続く関西ソウル~ファンク界の宝が登場。アンドウ!アンドウ!の連呼で、止まらないビートに乗り、安藤八主博が吠え、跳ね、突撃する。客席も一緒に腕をふり腰を振る。立たない人も気持ちは一緒だっただろう。〈もうええんちゃいまっか〉〈突撃!となりの女風呂〉。ナニワのJ.B.かルーファス・トーマスか。外見は似ても似つかないがそのファンク・スピリットはとめどなく熱い。ファンキー!ワンモアタイム!繰り返されるマントショー。カッコ悪いけどかっこいい。実はそこがファンクの真髄を体現している。


◆The SLOW WALKERz(秋山一将/近藤房之助/清水興/マーティ・ブレイシー)

これまでセッションで出演してきた近藤房之助が、今年は自分のバンドで出演する。それだけで期待が高まる。しかも「ずっと若い頃からかなわないと一目置いてきた」と語るギタリスト秋山一将と一緒だ。近藤房之助は“Call It Stormy Monday”や30年前にロンドンで録音したナンバーを。秋山も“People Make The World Go ‘Round”など2曲を歌った。秋山はさまざまな困難を超えてきたと耳にするが、一度獲得したトーンは誰にも奪えない。その一つ一つに耳を傾けるメンバーの表情からは、このメンバーで音を出せる歓びがあふれる。ラストはマーティ・ブレイシーが歌う“Members Only”。「We are The SLOW WALKERz!」と両腕を拡げた近藤の新たな門出に惜しみない拍手が送られた。


◆木村充揮

“Gee, Baby, Ain’t I Good To You”からゆったり始まり、お決まりの「演歌で」「ええ~んか」といった客とのコール&レスポンスをはさみながら〈嫌んなった〉まで、ライヴでしか味わえない時間が過ぎてゆく。冗談を言ったかと思えば「いろんな曲があるな。ブルースって民謡とか演歌とか生活の歌やな」とふっとつぶやき、歌世界にぐっと引き込んでいく。そんな瞬間が好きだ。

そしてラストに金子マリを招き入れ〈ラリル〉を。ゆっくりと言葉を紡ぐような歌声の傍らで木村のギターの美しさも光る。急遽決まった共演だったようだが、ありがとうと言いたくなるような1曲だった。2日間でバンドとソロ、2通りを聴くことができて、ひとつ木村充揮のリアルに近づけたような気がしたのは私だけではないだろう。


◆上田正樹R&B BAND(有山じゅんじ/樋澤達彦/堺敦生/Marvin Lenoar/Yoshie.N)

今一番信頼おける仲間を得て、右に左に動き、客席にソウル・パワーを届ける“キー坊”。短い時間の中でも完全燃焼したいとの思いが伝わってくる。“Soul Man”、“Stand By Me”、“You’re So Beautiful”、“The Letter”―― 先日の渋谷クラブクアトロでも感じたように半世紀歌ってきてたどり着いたレパートリー、大切な歌がここにあるのだ。多くの人がカヴァーしている歌だからこそ、上田正樹はどう歌うのかが際立つ。


両日ともアンコールは、このフェスのために用意された〈やったあ!!2023〉、そして石田長生ヴァージョンの〈The Weight〉。ヴォーカルの回ってきた出演者は“バンドマン”としてのそれぞれの想いを歌にこめる。ここにいてほしかった人の顔や背負った“荷物”と過ぎゆく日々が、聴く人にもよぎる。最後の最後までこのフェスにふさわしい2曲だ。そういえばロビー・ロバートスンもあちらの人になってしまった。

「来年もやります、ありがとう」
有山じゅんじはそう言った。有山じゅんじと清水興という2人のミュージシャンの信頼のもと、演奏する人と、聴きに来る人と、つくる人の想いが近い、これからもそんなフェスであってほしい。

文・妹尾みえ 写真・FUJIYAMA HIROKO
取材協力:グリーンズ/NPO法人なにわブルージー/ジョイフルノイズ

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