なつかしい×あたらしい なにわブルースフェスティバル2024
2日目/2024年9月15日(日) 大阪なんばHatch
◆Welcome Artistはジャグ・バンド
Welcome Artistは横浜ジャグバンドフェスティバルなど各地のイベントで活躍する激団モンゴイカ。ウォッシュボードやノコギリなどを揃えた本格的なジャグバンドだ。最新アルバム『JUGってパーティ!』には有山じゅんじが応援参加している。春待ちファミリーBANDの<ワシントンはアメリカの首都>をなんば版で聴かせたり、ここにも過去と未来をつなぐ人たちが。のぞきに来た吾妻光良も楽しそうだった。
◆吾妻光良トリオ+1に有山じゅんじ
この日は吾妻光良トリオ+1でスタート。バッパーズ・ファンでも意外に体験したことのない人がいたのでは? なんばにかけたわけではないだろうが<No.9 Train>で幕を開けた。「12小節ではないブルースもあります。これはジャズだ、いやブルースだという人もいます」とファッツ・ウォーラーの名曲<Love, I’d Give My Life for You>を。さらに有山じゅんじを呼び込んだ。「合唱しましょう」と選んだのは<If You‘re A Viper>。 「何が居心地がいいかっていうと中堅なので」と本人も笑っていたが、このイベントでは思いっきり後輩を楽しんでいる。
◆誠実さに揺さぶられた泉谷しげる
出演者の中で最高齢と紹介されたが、このエナジーを浴びたら年齢がどうのとかは言ってはいられない。たった一人でもそこからはバンドのグルーヴが聞こえる。半世紀以上前に作られた<巨人はゆりかごで眠る><すべて時代のせいにして>がますますリアリティを増すのはなぜだろう。<春夏秋冬>で思わず手拍子を始めた客席に「手拍子やめろ。そういう歌じゃないんで」と言える誠実さに揺さぶられる。そして「皆さんの歌です。皆さんにあげた歌です。自分の歌だと思って」と託された重みをこころに感じる。
なんでもかんでもブルースというつもりはないが、「せめて自分の今日にしろ」という言葉には、やはりブルースに通じるものを感じてしまう。
自主的アンコールは<野生のバラッド>。それまでと一転、右に左に動く泉谷に、それぞれが自分なりにジャンプし精一杯両手を打つ。
◆実力派2人による角打ちシスターズ
「ブルースフェス万歳!」と去って行ったロックンローラーに続いて登場したのは角打ちシスターズ。塩次伸二に師事したギタリスト静沢真紀、Chicago blues piano contestで2位を獲得した実績も持つピアニスト和田八美によるキャリアも十分の実力派デュオだ。特に和田からはくつろいだムードの中にも、とにかくピアノを弾いて歌うことが好きとの気持ちがいっぱいに伝わってくる。ミニアルバム『寄っていって酔ってって』録音のときにグランドピアノの弦を切ってしまったというのも納得のダイナミックなプレイと静沢の思いきりのいいブルージーなギターで確かな足跡を残した。
◆南部の匂い ザ・ファミリートーン
<メンフィス・ソウル・ステュ->でメンバーを紹介しながらショウタイムに巻き込んでいったのが、大阪で30年以上にわたって活動するザ・ファミリートーン。室隆雄とざ・たこさんでもおなじみ山口しんじのツイン・ギターを中心に、ボトムの低いアメリカ南部の匂いいっぱいのサウンドが気持ちいい。スライ&ザ・ファミリーストーンにインスパイアされたであろう名前のとおりファンキーかつ、甘くざらついた音を浴びる感覚。こういうずっと頑張ってきたバンドに出会えると得した気分になる。
◆レアな3人のギタリストによる共演
昨年に続いてのThe SLOW WALKERz (秋山一将、 近藤房之助、 清水興、 マーティー・ブレイシー、 堀田幸祐)。何度かツアーも重ね、昨年以上にバンドとして結束力を感じる。「楽しいです」と笑う近藤の顔も好調を物語っている。秋山も調子が良さそうだ。そこに「僕が敬愛するギタリスト、シンガーを紹介します!アヅマ!」と呼び込まれたのが吾妻光良。近藤の古稀祝いライヴで吾妻トリオとしてサポートしたことはあったが、ギタリスト同士でこの共演が目撃できるとは!ブレイクダウン、ブルーヘヴン時代を知る人なら、少なからず熱い思いを感じた人はいたはずだ。曲も94年にロンドンで録音して近藤が大切に歌い続けてきた<Traveling>。そしてブレイシーの歌う<Members Only>へ。近藤・秋山・吾妻の共演は後々必ず皆の宝ものになるだろう。
◆いつも視線は未来へ。三宅伸治&the spoonful
走って登場したのが、すっかり本フェスの顔となった三宅伸治&the spoonful (高橋”Jr.”知治、 茜、 KOTEZ)。ここ最近のSpoonfulは、バンドとしてがっちりとより絆が強くなった印象だ。この4人だからこその息づかい、タイミングすべてが大きなグルーヴになって観客を巻き込んでいく。おなじみのナンバーに加え、今回は新曲<出発>も聴かせてくれた。いくつになっても、まだまだここからとの三宅の決意を映す感じる曲が頼もしい。
◆一瞬足りとも目が離せない 有山岸+Char
2019年の第4回に出演したCharが有山岸と共に戻ってきた。
「3人合わせて200歳くらいか」「敬老トリオやな」と軽口を叩きつつ、いつの間にか演奏が始まった。<キャラバン>だ。自在にギターを操る3人によってそれが<買物にでもいきませんか>になっていく。余計なおしゃべりよりギターを弾こうとの思いからかどんどん曲は進み、有山岸の<よいしょ、よっこらしょ>、BAHOの<Boat Club Road>に歓声が起こり<バン バン バン>へ。「石ヤンおりてきたな」とCharが見上げれば「そのへんにおるよ」「知らんけど」と有山岸の2人。「ちょっと懐かしい曲やります」と言って始めたのがシャッフル調の<夕焼けこやけ>。「夕焼けブルースや」と3人で笑う。<なつかしの道頓堀>を終えたところで「このくらいでええんちゃう」と言う山岸に「ついてこいよ」と始まったのは<スモーキー>。これには観客も大喜びだった。「こっからがメインやから」と時折茶化していたが、一瞬たりとも聞き逃せないすべてメインのステージだった。
◆ファンキー・グルーヴ BIG HORNS BEE
トリは今年も3日間出演のBIG HORNS BEE(金子 隆博、 小林太、 小澤篤史、 河合わかば、 織田浩司、 石川周之介)。この日は清水興、マーティ・ブレイシー、井上央一らが加わり、彼ら中心の選曲でニューオーリンズ・オマージュの<星空のバンドワゴン> から<I’ll Fly Away>へ。続いて「じゃオークランド・グルーヴを」と金子がメンバーと目を合わせたグルーヴ玉手箱のような<Vamp Intro>がキマった瞬間には拍手・拍手・拍手。一転<アナタヲソコニカンジタ -Amazing Moment-> では見る見る会場が温もりに包まれていく。このフェスではかつて木村充揮も歌ったことを思い出した。私も含め、このフェスで彼らのファンになった人は多いだろう。彼ららしい華やかでファンキーなフィナーレだった。
◆それぞれにエールを送るアンコール
この日もアンコールは華やかだ。出番のなかった金子マリが現れると大きな歓声が起きる。もちろんCharもいる。ロビーで演奏した激団モンゴイカもいる。ベテランであろうと若手であろうとお互いをリスペクトし、健闘にエールを送る。一番楽しんでいるのは出演者かもしれない。そこがまたいい。
文・妹尾みえ 写真・FUJIYAMA、Mie Senoh(★のみ)
取材協力:NPO法人なにわブルーンジー、グリーンズ、