なつかしい×あたらしい なにわブルースフェスティバル2024
3日目/2024年9月16日(祝・日) 大阪なんばHatch
◆NBF流おもてなしいろいろ
演奏以外にも楽しんでもらおうと“おもてなし”があちこちにあるのもこのフェスならでは。もれなく配られるのが、出演者を紹介する四つ折りパンフレット。このほか「ブルース・シート」のチケットを購入すると、1階か2階の最前列の席が約束されるだけでなく、ブルースセットが付いてくる。トートバッグの中にはハーモニカなどのノベルティ・グッズが入っているのだとか。
また今年は玉出の「オクトパス」が出店。ソースの香りに誘われ、あつあつのたこ焼きを頬張りながらブルースを満喫するという“なにわ”ならではの演出も楽しめた。
◆ニッポンのブルースのルーツを感じて
出し惜しみしませんと胸を張るフェス3日目のトップバッターは、なんと宇崎⻯童 &御堂筋ブルースバンド with 野本有流だ。ギターには田中晴之、ベースは南角光児(ex.花伸)、キーボードに土井淳、さらにこの日はドラムスに高木太郎と実力派揃い。そろいの半纏に前掛けが映える。
まずは70年代からアンタッチャブルで活動してきた野本有流が<Dexie Rain>と<南海ファンやもん>を歌う。前者は山岸潤史プロデュースによりニューオーリンズで録音された『戎橋コネクション』の1曲目だった。満を持して宇崎竜童がステージのセンターへ。スターのオーラ全開で魅せる。ダウン・タウン・ブギウギ・バンド時代の<スモーキン・ブギ><カッコマン・ブギ>、山口百恵に書いた<ロックンロール・ウイドウ>を惜しみなく爆発させる。塩次伸二の愛弟子とも言える田中のソロをこの曲で聞くことになるとは想像してみなかった。思えば70年代の日本の若者たちに広くブギと名の付く曲のカッコよさを初めて伝えたのは彼らか、あるいはサディスティック・ミカ・バンドだったのではないだろうか。歌謡曲というフィールドに表れたブギやロックンロールは、確実にニッポンのブルースのこやしになっている。ラストの<生きてるうちが花なんだぜ>もそれを象徴する1曲だ。
◆クロスジェネレーションの醍醐味を感じて
まだ1組目とは思えない余韻の中、木村充輝ロックンロールバンド(三宅伸治、 中村きたろー、 Kenny Mosley、 前田サラ)が登場。「いろんな人が集まっているからこそのバイブス、緊張感があるんです。クロスジェネレーションしたい。全く世代の違うギグを積極的につくっていきたい。」と語ったのはフェスの音楽プロデューサーも務める清水興だが、この“キムロック”バンドはまさにクロスジェネレーションのパワーを持つバンドだ。ずっと大事に歌ってきた<嫌んなった>もジャングルビートで跳ねる<君とのランデブー>も、新しい生命を吹き込まれる。ラストに<胸は痛い>。おまえが・・と歌い出した瞬間、あぁぁとため息に近い漏らす人がいた。歌い継いで聴き継いでほしい歌という本をつくるなら選びたい1曲だ。
◆初出場組も強力!
続いて初出演のスクナシ。3人だったズクナシの歌を衣美、茜の2人だけで歌うユニットだ。ギターとドラムスだけとは思えない大きなグルーヴに観客も圧倒される。圧倒されはするが、衣美の歌はこれ見よがしなところがなくそうだよねと寄り添う力がある。ズクナシの頃から時に涙を流す人もいた<We Sing One Voice>が染みる。次はEmi Landでも出演してほしい。
あちこちで話題のthe Tigerが歓声を浴びながら、飛ぶようにステージ中央へ。1曲目には前田サラも加わり、気持ちいいほどフルスロットルだ。大きなステージにも臆しないどっしりとしたバンドに成長したことが感じられる演奏。ただただ爽快だ。ギタリストのたいがと、山岸潤史によるクロスジェネレーションの醍醐味を感じる瞬間もあった。こうした共演の一つひとつが数年、数十年後に大きな花になって開くと信じたい。
◆笠置シズ子からニューオーリンズまで
最近ではNHK連続テレビ小説「カムカムエヴリバディ」や「ブギウギ」でも活躍しているトランペットとヴォーカルのMITCH率いるMITCH ALL STARS。<スターダスト>で空気の色が変わる。<オン・ザ・サニー・サイド・オブ・ザ・ストリート><What A Wonderful World>といったスタンダードにまさに自分らしく息を吹き込む感じ。スマイリー・ルイスの<Little Mae>では富永寛之のギターがタイミングも何もかも最高。「昭和13年にこんなブギが流行ってたんですね」と前置きした演奏した笠置シヅ子の<ラッパと娘>に割れんばかりの拍手が起きる。今日は宇崎竜童に始まり、ニッポンのブルースのルーツを肌で感じられる日だ。
◆山岸潤史のグルーヴ全開
BIG HORNS BEE feat.山岸潤史は、KenKen(ba)、FUYU(dr)という世界レベルの躍動するリズム隊を迎え、カラフルな世界を味合わせてくれた。ホーン・セクションで聴かせる<Don’t You Lie To Me>も楽しかったが、なんといってもBHBのオリジナル<African Fever>から、パパトゥンデ・オラトゥンジの<JINGO>へのメドレーは見事! グルーヴが身体をめぐっていく。かつて<JINGO>を取り上げたサンタナは「アフリカ音楽の周波数は、人々に希望と勇気、喜びをもたらす」と語ったが、それを体感できた瞬間があった。
◆誰も立ち止まらない。だからこのフェスは面白い
フェスの大トリは上田正樹R&Bバンド(有山じゅんじ、 樋澤達彦、 堺敦生、 Marvin Lenoar、 Yoshie.N)。<Soul Man><Letter>といった変わらぬソウル・ミュージックへの変わらぬ姿勢を示すナンバーを歌いながら、右に左に動くキー坊。さらに日に日にその存在感を確かなものにしているシンガーYoshie. Nが<Proud Mary>で盛り上げる。このバンドでは改めて有山のギターに痺れる瞬間が多いのだが、ラストの<悲しい色やね>は圧巻だった。酔いしれる観客も自然とHold Me Tightと声をそろえて歌う。聞くところによれば有山からの提案で決まった1曲だったという。
まだまだやれてるという言い方はしたくない。先輩たちは、もっともっとイケてる。新しい気持ちを見せていこうという心意気をぐいぐい感じる。
同じメンバーでも、去年と同じことなんかあたりまえだけど一つも起きていない。いつだって心地よい疲れとともにおみやげをいっぱい持って帰れるのだ。個人的にもこのフェスはニッポンのブルースの歴史を感じながら、来し方行く末も考えるかけがえのない時間になっている。
さてすでに期待は来年へ。
音楽プロデューサーの有山じゅんじ、
何か特別なことがあってもなくても、またみんな元気になにわで会いましょう。
文・妹尾みえ 写真・FUJIYAMA、Mie Senoh(★のみ)
取材協力:NPO法人なにわブルーンジー、グリーンズ、