ブルース&ソウル・レコーズ

【特集:伝えておきたいブルースのこと】㉙都会の夜のブルーな儀式

アーバン・ブルース チャールズ・カイル著 北川純子 監訳 浜邦彦・高橋明史 訳 ブルース・インターアクションズ刊 [2000]

「アーバン・ブルース」という言葉がある。直訳すれば「都会のブルース」であるが、その都会でブルースマンが果たす役割は南部の田舎のブルースマンとどう違うのか。そうした分析を試みたのが、1966年に原書が刊行された『アーバン・ブルース』(チャールズ・カイル著/北川純子監訳)である。

 気鋭の民俗音楽学者であった著者が修士論文を元に書き上げたもので、当時最新の社会学、社会心理学などを用い、B・B・キング、ボビー・ブランド、ジュニア・パーカーら、アーバン・ブルースマンの歌詞やステージ・パフォーマンスを細かく分析しながら、都会のブルースマンの役割を論じている。まだ白人(非黒人)社会が彼らのようなブルースマンの存在に気づいていなかった時代に書かれた本書は、多くのブルース愛好家に強いインパクトを与えた(1968年に『都市の黒人ブルース』として初訳)。50年近く前の本であるが、今現在読んでも大いに刺激を与えてくれる一冊だ。

 カイルは本書の中でこう記す。

「アーバン・ブルース歌手は、誰もが抱えている問題を明確かつ簡潔に歌に表わすだけでなく、ある意味で、その分析と解決に向けて一歩を踏み出さなければならないのである」

 その役割を果たすためにもステージ上で聴衆を惹き付け、連帯を呼び起こさなければならない。歌の上手さに加え、ステージングの技量が問われるのである。

 1965年に発表されたB・B・キングのアルバム『ライヴ・アット・ザ・リーガル』は、ブルース名盤として知られる。シカゴにおける黒人音楽の殿堂「リーガル劇場」で記録され、聴衆との駆け引きも鮮明に映し出した本作は、脂の乗り切ったB・Bの歌とギター、完璧なバンドによる演奏といった音楽的な質の高さはもちろんのこと、新たな役割を背負ったアーバン・ブルースマンの最高のドキュメンタリーという点で比類なきアルバムだ。

 B・Bと並ぶアーバン・ブルースマンの最高峰、ボビー・ブランドは同時期にライヴ・アルバムを吹込まなかったが、彼の最高傑作アルバム『ヒアズ・ザ・マン!!!』(1962年)はスタジオ録音ながら、ライヴさながらにMCの呼び込みで始まる。ブランドのステージの様子が思い浮かぶ仕掛けである。彼のファンはライヴ会場で得る連帯感とカタルシスをレコードから感じ取ったに違いない。

特集:伝えておきたいブルースのこと50