2018.9.19

【特集:伝えておきたいブルースのこと】㊺ブルースでひと息

南部黒人たちの憩いのブルース
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Z.Z. Hill / Down Home (Malaco MAL 7406) [1981] R&Bアルバム・チャート17位を記録

 大音量で響き渡るエレキ・ギターのブルースでもなければ、扇情的なアップテンポのダンス・ナンバーでもない。仕事を終えたあとは、ゆっくりとしたブルースが聞きたい。家に遊びにきた女友達の言葉をヒントにソングライターのジョージ・ジャクスンが書いたのが、80年代の南部ブルース・シーンを象徴する一曲であり、今や南部のブルースの定番となった〈ダウン・ホーム・ブルース〉だった。

 ミシシッピ州ジャクスンに居を構えるマラコ・レコードから発売された同曲は、ラジオでじわじわと支持を広げていく。歌ったのは50年代から活動を続けているZ・Z・ヒル。シングル・カットされなかったこともあり、同曲を収めたアルバム『ダウン・ホーム』は彼にとって初のアルバム・チャート入り作品となった。1982年のことだ。

 曲を書いたジョージ・ジャクスンは当初、ヒットしたことに驚いたという。メジャー・レコード会社は白人市場でも売れる黒人シンガーのレコード、いわゆる「クロスオーヴァー」する曲を求め、ヒット・チャートにもそうした曲が並んでいた時代に、大きいとはいえない南部のインディ・レーベルから発売されたブルースが売れるとは思っていなかったのだ。Z・Z・ヒル、リトル・ミルトン、ジョニー・テイラー、ボビー・ブランドといったヴェテラン・シンガーたちは、メジャーに籍を置いていたものの、クロスオーヴァーするヒットをほとんど出せずにいた。Z・Zがマラコからヒットを出したことで、彼らは再び南部でブルースを求めている人たちに向けた作品を作り出した。

 〈ダウン・ホーム・ブルース〉の曲調は、50年代後半にヒットを連発したシカゴのブルースマン、ジミー・リードの作品に倣っている。少しテンポを落とした、でもスローではない、ミディアム・テンポのブルース。ゆっくりとステップを踏めるリズムだ。いくぶん年を重ねた人たち、成熟した聴衆が求める音楽として、ブルースは受け入れられたのかもしれない。

 〈ダウン・ホーム・ブルース〉と並ぶ、この時代に生まれたブルース賛歌は、リトル・ミルトンの〈ザ・ブルース・イズ・オーライ〉だ。82年にフランスのレーベルで録音していた曲だが、84年にマラコで再度吹込み、定番化した。ボビー・ブランドの85年作〈メンバーズ・オンリー〉も大きな支持を得た。ブランドは聴き手を包み込むように歌う。会員制のプライヴェート・パーティ。お金もいらなければ、小切手も不要。資格は、愛する人を失い、心に傷を負った人─。この曲は、社会の下層に生きる人たちの応援歌ともなった。

 85年にアトランタで設立されたイチバン(一番)レコードは、クラレンス・カーターなどのブルース/ソウルのヴェテラン・シンガーを抱え、マラコと同じように南部のブルース・ファンに向けた作品を送り出した。ブルースが多様化する中で、南部にブルースが戻ってきた。いや、ブルースはどこにも行っていなかったのだ。

Bobby Bland
Members Only b/w I Just Got To Know
Bobby Bland Members Only b/w I Just Got To Know
(Malaco MAL 2122) [1985]
ボビー・ブランドにとって全国チャートに上がるヒットはこの曲が最後だった(R&B 54位)

Albert Collins/Robert Cray/Johnny Copeland  Showdown!
Little Milton / Playing for Keeps
(Malaco MAL 7419) [1984]
〈ザ・ブルース・イズ・オーライ〉収録

特集:伝えておきたいブルースのこと50

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