2024.5.30

【ゴスペル・トレイン~ゴスペル界の名士たち 第3回】クララ・ウォードとウォード・シンガーズ

クララ・ウォード(最後列)とウォード・シンガーズ。最前列左がガートルード・ウォードだ。

今日のR&Bやソウル・ミュージックなどの重要なルーツであり、ロックにも影響を与え、ジャズとも繋がり、ブルースとも深く関係するゴスペル。創刊以来、本誌ではブルースやソウルだけでなく、ゴスペルの魅力もさまざまな記事で読者に伝えてきました。No.76(2007年8月号)から続く佐々木秀俊さんの連載『ゴスペル・トレイン~ゴスペル界の名士たち』もそのひとつ。その大人気連載をウェブで第1回からお届けします。“聖なるエンタテインメント”=ゴスペルの世界へようこそ!


【第3回】アリサにも影響を与えた、女声グループの頂点 - クララ・ウォードとウォード・シンガーズ
[文]佐々木秀俊

ゴスペルは「ソウルの源流」であり、ソウル・シンガーの多くが元々教会で歌っていたとか、歌唱法はゴスペル・シンガーの影響を受けているとかいう話は、ブラック・ミュージック・ファンの間でだけではなく、一般的にも常識となっていると思う。

しかし、知識としては知っていても、ソウル・ミュージックのどの辺がゴスペル的なのか、また、どのソウル・シンガーがどのゴスペル・シンガーの影響下にあるのかというような具体例は、「フツーの人(この雑誌を読まないような人)」はあまり知らないのではないだろうか?

そうした「ゴスペルの影響を受けたソウル」の最もよく知られた典型例のひとつが、クララ・ウォードとアリサ・フランクリンの関係だ。後述するが、アリサの歌手としてのキャリアは、クララを忠実に模倣することから始まった。それはもう、小学校時代の「書き方」のお稽古で、お手本を懸命になぞる姿を連想してしまう程に。

それが単なる物真似に終わらず、自身のスタイルへと昇華して「クイーン・オヴ・ソウル」の称号を得たアレサはやはり偉大だ。しかし、お手本があまりにも素晴らしかった事もまた事実。今回はその、「ヒム(20世紀初頭にゴスペルが生み出される以前から歌い継がれてきた古い賛美歌)を歌わせたら無敵」とまで言われたクララ・ウォードとウォード・シンガーズを紹介させて頂く。

 

元々は1930年代にフィラデルフィア在住の女性シンガー、ガートルード・ウォードが娘達と結成したファミリー・グループがウォード・シンガーズのスタートだった。1924年生まれのクララは早くからグループのリード・シンガー兼ピアニストとして頭角を現し、辣腕のステージ・ママであったガートルードのマネージメントにより、40年代前半には全国区のスターとしての地位を確立した。

49年からはサヴォイにレコーディングを開始。この際に加えた補強メンバー2名、ヘンリエッタ・ワディとマリオン・ウィリアムズはいずれも大変な実力者で、とりわけマリオンはクララに勝るとも劣らないソリスト、というよりゴスペル史上屈指の歌唱力の持ち主だった。そういう訳でウォード・シンガーズがサヴォイに遺した録音は女性グループの頂点をなす素晴らしい曲の数々となった。50年に録音したグループ最大のヒット曲〈シュアリィ・ゴッド・イズ・エイブル〉を聴くと、このグループの魅力を端的に味わうことができる。

クララとグループのコール&リスポンス(ゴスペルに特徴的な掛け合い)でスタート、硬質で迫力一杯のコーラスをバックに美しく威厳あるアルトで歌うクララ、そしてマリオンにリードをスウィッチ、“Whoooo ...”とリトル・リチャードが模倣したという強力なフーピングで始まり、完全無欠の歌唱で聴く者を圧倒する。

クララは同時期にソロでも録音し、特に“ワッツ・ヒム”と呼ばれる古い賛美歌〈ザ・ファウンティン〉〈アット・ザ・クロス〉等で“右に出る者無し”と讃えられる歴史的名唱を遺した。少女時代のアリサ・フランクリンが憧れた歌である。

アリサとの繋がりは、彼女の父で高名な牧師でありゴスペル・シンガーでもあったC.L.フランクリンが、ウォード・シンガーズとともにトゥアーした事による。アリサはグループのメンバーと親類のような付き合いをしながら、憧れのクララを真似て歌うようになった。

アリサの初録音は彼女が14歳の時、56年に吹き込まれた父のゴスペル・ライヴLPに収められているクララ直系の〈ネヴァー・グロウ・オールド〉だ。もっともその歌声がアリサだという事に異論を唱える人もいて、「アレサの姉」である可能性もあるという。いずれにせよ、アリサを含めたフランクリン牧師の子供達がウォード・シンガーズ、とりわけその花形リードだったクララの強い影響を受けたことは間違いない。

ウォード・シンガーズは度々優れた歌手を加入させてグループを強化させた。結果、このグループ出身の素晴らしいソリストが多く輩出することとなり、こうしたゴスペル・シンガーズの強化策は後続のグループに模倣され、名門グループに加入することが一流ソリストへの登竜門(さらにはソウル・シンガーへのステップ)となる風潮を生んだ。同じように名ソリストを生むことで名高いグループに、キャラバンズがある。

順風満帆だったウォード・シンガーズだったが、60年代以降はナイトクラブへ出演する等、当時のゴスペル界では掟破りの活動や過剰なショウアップが批判の対象となり、ゴスペル史上での評価は功罪相半ばする、といった所である。しかし50年代迄のサヴォイ録音が、そしてアルトの賛美歌歌手としてのクララが最高であるという事実が動くことはない。

クララは73年、脳卒中により49歳の若さで亡くなった。葬儀ではアリサ・フランクリンが彼女のアイドル最高の名唱と言われる〈ザ・デイ・イズ・パスト・アンド・ゴーン〉を歌った。


【基本の一枚】

THE FAMOUS WARD SINGERS
I Feel The Holy Spirit
(Gospel Friend PN-1502)

1949~51年のサヴォイ録音24曲を収録した編集盤。“Surely God Is Able”は未収録。なお、同曲を収録した『Surely God Is Able』ほかサヴォイ時代のアルバムのいくつかは現在配信で聴くことが出来る。

(初出:『ブルース&ソウル・レコーズ』2007年12月号 No.78)

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