2025.10.7

【LIVE REPORT】変幻自在の構成を組み込んで進化し続けるファンク ニューオーリンズを代表するシンガー&ピアニスト ジョン・クリアリー

1993年、神戸アーバン・リゾート・ジャズ・フェスの初来日以来、幾度となくジョン・クリアリーのライヴを観てきた。その度に変幻自在の構成を組み込んで進化し続ける姿を見せてくれていた。嬉しいことに一昨年のLive Magicでの強烈なステージの記憶も覚めやらぬままに今回の来日、そりゃもう大歓迎である。予想どおりリリースから間もない新作アルバムの演目が中心であり、コーネル・ウィリアムスのベース、パーカッションにペドロ・セグンド、ドラムスに新メンバー、トーマス・グラスを擁するアブソルート・モンスター・ジェントルメンが支える。新作アルバムに導入して楽曲に厚みを加えたホーン・セクションの再現を図り、日本のサックス、トランペット/トロンボーン奏者を加えて華やかさが増したステージになった。欧州や米国を楽旅した夏のツアーを経ての日本公演、その冒頭で“日本のリスナーは世界最高!”と放った言葉はお世辞ではない、それほどに彼らを迎える歓声は大きく温かいものがあった。

オープニングはリー・ドーシーの「Lottie Mo」から。ルーズで滑らかなシンコペイションは聴く者の体を揺らし、我々をニューオーリンズの街中へと放り込む。サックス・ソロでは「Iko Iko」のブリッジで聴きなれたフレーズが飛び出し、こういう隠し味に触れると私はいきなりハイになる。いつものようにニューオーリンズの先達に寄せるリスペクトを忘れない。プロフェッサー・ロングヘアの「Tipitina」を改作した「Fessa Longhair Boogaloo」ではパーカッション・ソロを入れてカリビアン・テイストをふんだんに盛り込む。この展開が素晴らしく、ホーンとの掛け合いとキューバン・ピアノのソロ、そしてブレイクを巧みに盛り込んでもう大変!てな感じである。アール・キングのバッキングを務めたことがあると語り歌い始めたのが、「Those Lonely, Lonely Nights」。そういえばニューオーリンズでスヌークス・イーグリンやアール・キングのバックで弾くジョンをその昔に観たな、なんて個人的な思い出が蘇る中でこのメランコリックなブルース・バラードに耳を傾けた。大きなどよめきが出たのは日本ではお馴染みだね、とドクター・ジョンの名が発せられた瞬間だった。「Such A Night」を演ってくれるとは。会場のみんなと一緒に歌うなんて楽しすぎる。

自作曲のブルースがこれまた滋味溢れた内容で胸を打つ。HBO制作のドラマ『Treme』が初出の「Frenchmen Street Blues」、スウィンギーなシャッフル「Two Wrongs」がそれだ。ファンキーな流れが続く中で大きなアクセントを記してくれた。導入部のバラードから一転してカリブ海をドローンで俯瞰するような「Pickle For A Tickle」ではさらにニューオーリンズR&Bを彷彿させるホーン・リフが躍り出し、「Zulu Coconuts」ではマルディグラのパレード・ビートが空間に踊り出す。ラストはミーターズの「Just Kissed My Baby」。途中の阿吽の呼吸によるブレイク、地鳴りのごとく唸るベースは生音ならではのウルトラ・ファンク、最高です。定番の自作ファンク「Mo Hippa」はアンコールで披露され、後半にリバース・ブラス・バンドの「Feel Like Funkin’ It Up」をつなげて会場の熱気は頂点に至る。全15曲全てが予想のつかない起伏あるアレンジで彩られ、発散されるグルーヴの凄まじさに目を見張るばかりでありました。

ニューオーリンズ・ミュージックとは? そんな答えは分からない、コンゴ、ハイチ、キューバ、フランス、スペイン、奴隷制、インディアン、全てを遠縁にもつが本当のところは分からない、理解しようなんてとうの昔に諦めた。肝心なのはとにかく演奏することだとジョンは語る。だから演奏し続ける、ファンクを進化させながら。

嵐吹き寄せる怒涛の波とひたひたと寄せる凪の波。寄せては返すニューオーリンズ・ファンクの波を浴びた120分。ああ、もっと聴きたい、いつまでも。

◆Member
Jon Cleary
Cornell Williams - bass
Thomas Glass - drums
Pedro Segundo - percussion
Daisuke “Icchie” Ichihara - trombone / trumpet
Satoru Takeshima - sax

文:文屋 章
協力・写真:SMASH

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