今年は2日目、3日目ともにSold Out!
それに先立ち、1階または2階の最前列を確約し、おみやげも付く「ブルースシート」は早々に完売。例年はハーモニカが同封されていたが、「キーが出尽くしたので」とのことで今年は大判の“くいだおれ太郎”刻印入り「やわらか焼き」! 神戸の亀井堂総本店は瓦せんべい発祥の老舗。神戸×大阪のコラボ、楽しいなあ。


ホールには昨年に続き玉出の「オクトパス」が出店。熱々のたこ焼きとブルースのコラボが今年も実現した。
協賛にはメンフィス、シカゴ、ニューオーリンズ各観光局の名も。世界に引けをとらない日本のブルース——交流が日常になる日も近いかもしれない。
文:妹尾みえ
写真:FUJIYAMA HIROKO/Mie Senoh
取材協力:NPO法人なにわブルージー/グリーンズ/ジョイフルノイズ
◆恒例9月の『Sittin’ On Top Of The World』

午後3時。開場前には列ができる。指定席ゆえ急ぐ必要はないが、恒例のロビー・ライヴを楽しみにしている人も少なくない。
今年も有山じゅんじ、清水興、主催のNPO法人なにわブルージーの玉置賢司、ポスター・デザインを手がけてきた張間純一が出迎える。
ケガや入院のアクシデントを経た有山と清水が、〈Sittin’ On Top Of The World〉にのせて「今年もまた9月になれば〜」 この歌声が聴けるのが殊にうれしい。
1日目の大久保紅葉に続き、2日目にはKOTEZと有吉須美人が飛び入り。有吉はスマホのピアノ・アプリでセッションし、集まった人を楽しませた。
◆the Tiger

アナウンスと同時に歓声。多くのファンがこのバンドに夢を託している。
三宅伸治との共作〈我慢できない〉でスタート。東名阪ワンマンなどで力をつけた彼らにぴったりのナンバーだ。短い尺に〈幸せのルール〉や〈働き者のうた〉などの“顔”をぎゅっと凝縮。
有山じゅんじがふらりと現れ、〈そんなにガミガミ〉を一緒に。まるでthe Tigerのためにあるブギで受け継がれるスピリットが見えた。
◆木村充揮ロックンロールバンド(木村充揮/三宅伸治/中村きたろー/Kenny Mosley/前田サラ)+有吉須美人

木村充輝がゆっくりと〈Kind Hearted Woman〉を歌い出すと、一転して〈おそうじオバチャン〉へ。
今年はシカゴで活躍するピアニスト、有吉“アリヨ”須美人がゲスト参加。転がるピアノがブギに燃料を注ぎ、会場は一気に加速。前田サラはアクションを交え激しくブロウ、すっかり“バンドの顔”。見つめるアリヨの眼差しが温かい。
〈野良犬〉〈心はマ・ル・ハ・ダ・カ〉、「死ぬまで歌い続けるぞ」とシャウトする〈君といつまでも〉から〈嫌んなった〉へ。“キムロック”の進化を感じさせるステージだった。

◆blues.the-butcher-590213(永井“ホトケ”隆/沼澤尚/中條卓/KOTEZ)+土屋公平

今回、個人的にも楽しみにしていた顔合わせのひとつ。
SNSで愛聴盤を紹介し続ける永井“ホトケ”隆と土屋公平。遠くから互いのブルース愛をリスペクトし合ってきた二人が、ついに同じステージへ。
〈Crosscut Saw〉〈Don’t Throw Your Love On Me So Strong〉と、アルバート・キングのナンバーを二連発。日本屈指のブルース・バンドに礼を尽くす土屋ならではの“大きなグルーヴ”が、BTBのサウンドと見事に交差する。
ヴォーカルは土屋にバトンタッチ。ブルース伝説を自らの言葉で描く〈四ツ辻のBlues〉、シカゴ・スタイルの〈Jiving Honey Bee〉、チャック・ベリーから学んだロックンロール〈クレイジー・ホース〉の3曲。KOTEZのハーモニカも絶妙に絡み、内にこもらず外へ外へと広がっていくブルースが心地よい。
ラストは〈Killing Floor〉で完全燃焼。ホトケと土屋の固い握手が、次の共演を約束していた。

◆Big Horns Bee+June Yamagishi

下手からJune Yamagishiが現れた瞬間、「わっ、アルバート・キングだ!」と駆け出したくなる。紫のジャケットにハット、パイプ、そしてフライングV。
曲は〈Let’s Have A Natural Ball〉。ホーン・セクションがあのリフを吹く。5管でこの曲を聴けるとは——鳥肌ものだ。ロック的に語られがちなキングだが、59年頃はジャンプ・ブルース的要素も濃い。山岸は歌いながらフライングVに魂を込める。
ニューオーリンズで最初に録音した曲だという〈I Hear You Knockin’〉でも5管の贅沢は続く(The Yockamo All-Stars『Dew Drop Out, A New Orleans Second-Line R&B Jam!』に収録)。ゆったりしたピアノにスマイリー・ルイスの笑顔が浮かんだ。
「72歳のミーハーです」と胸を張る山岸の潔さがかっこいい。そういえば好きだ!と言える音楽に出会えたことの幸福。好きな音楽を追い続ける気持ち。いくつになっても忘れないでいたい。〈12:23〉では沼澤尚とダウンホーム・ボーイズの一員としてこの曲にコーラス参加した永井“ホトケ”隆が呼び込まれる。ラストはタイトル曲〈Jack of the Blues〉。「本場に行ってブルースをやろうとしている男のうたです」 キングではなく“Jack”。95年に海を渡ってから30年——山岸は今年ニューオーリンズ音楽の振興に多大な貢献をした人々に贈られるフェッシー賞を受賞した。音楽への思いはなお深まるばかりだ。
◆ナオユキ

今年も皆勤賞。楽器を持たないミュージシャン——スタンダップ・コメディアン、ナオユキ。
おっちゃん、おばちゃん、おねえちゃん。ダメだけれど愛すべき人たちを、やさしくユーモラスに描く。
「治癒とは、生まれてきてよかったと思うこと。仕方がないと受け入れること」——ある精神科医の言葉を思い出す。人生に勝ちも負けもない。ナオユキの笑いには、そんなセラピーのような温もりがある。
◆ぼちぼちいこか(上田正樹/有山じゅんじ/中西康晴)

2023年にも同じメンバーでステージに立ったが、今年は出演者にも観客にも特別な思いがある。
エレガントな中西康晴のピアノから、〈大阪へ出てきてから〉。自然に手拍子が広がる。アルバム『ぼちぼちいこか』の1曲目だったこの曲から、すべては始まった。
「この50年、こうして歌い続けてここにいます」と上田。〈俺の家には朝がない〉〈あこがれの北新地〉と、カウントなしで世界観が次々つながっていく。〈みんなの願いはただひとつ〉では、レコーディング参加の金子マリが呼び込まれる。

“アルバム唯一のラブソング”〈梅田からナンバまで〉、そして〈なつかしの道頓堀〉へ。キー坊、ジュンジ・ラグタイム有山、ナカニシ、マリチャン——半世紀前に作った歌を、いまの気持ちで歌っている。そこに居合わせることがうれしい。
「必ず『ぼちぼちいこかII』を3人で作ります」 上田の言葉に会場が沸いた。
◆泉谷しげる

すっかりこのフェスの常連となった泉谷しげる。ギターを掻き鳴らし〈巨人はゆりかごで眠る〉から。“どうせ男は消耗品”と歌う音頭調の〈Y染色体のうた〉(作曲は中西康晴/藤沼伸一)では、観客も腕をひらひら動かし一緒に踊る。そしてこれからもどこかで誰かに歌い継がれるだろう〈春夏秋冬〉から、自ら「アンコール!」とシャウトして〈野生のバラッド〉へ。喜寿を迎えてなお全力のロックンロール。
「ジャンプ! やったふりでいい!」の呼びかけに応え、笑顔で手を挙げる観客へ「美しい! 合格ぅ!」 日本のブルースと並走してきた泉谷は大喝采の中、名残惜しそうに去っていった。
◆Mari Kaneko Presents 5th Element Will(金子マリ/北京一/森園勝敏/窪田晴男/石井為人/大西真/松本照夫)

森園勝敏のギターが客席を熱く包む。四人囃子の代表曲〈レディ・バイオレッタ〉だ。
金子マリが松本照夫の〈星〉を歌い、忌野清志郎の〈彼女の笑顔〉へ。マリがずっと大切に歌ってきた歌たちだ。一転、北京一が表情豊かに〈Are You OK?〉と問いかける。身振り手振りを交えたトーキング・ブルースに、ソー・バッド・レビューの匂いが立ち上る。活動は1976年と50年に1年足りないが、ソー・バッドもなにわブルースを象徴するバンドだ。

ラストは日本語詞の〈A Change Is Gonna Come〉だ。ソー・バッドにいた砂川正和のことも私たちは忘れない。途中、マリがこの日の出演者を頭から振り返り、「東京の人間でブルースと全然関係ないんですけど、呼んでくれてありがとうございます。気づけば50年も歌ってるんですね。いつまで歌うんですか」とユーモアを交えて語る。
いや、まだまだ歌い続けてください、マリさん。
独白がふっと途切れ、絶妙な呼吸でバンドが歌に戻る。
「でも変わるときが来るんだ、きっと変わる」——永遠のメッセージが、なんばHatchを包んだ。

◆2日目全員でのアンコール























