2023.9.26

【鈴木啓志のソウル・レコード・レーベル物語 第2回】ジュウェル -後編

60年代からブラック・ミュージックを探求し続ける音楽評論家、鈴木啓志さんが忘れられないレコード・レーベルの足跡を追う大人気連載《なるほど!ザ・レーベル》。No.72(2006年12月号)の連載開始から17年、No.172で第100回を迎えたのを記念してウェブで第1回から大公開!第二回 前半はこちらから


濃厚なサザン・ソウルを届けたロン、方向性の異なるポーラ

66年に発足したもうひとつのレーベル、ロン(Ronn)はジュウェルと比べるとはっきりソウル寄りのレーベルだった。その名の由来はスタンの弟ロニー(Ronnie)から来たもので、その3枚目の作品トゥーサン・マッコールの“Nothing Takes The Place Of You”(Ronn 3)にその方針が集約されている。メンフィスやマスル・ショールズの音を目指すサザン・ソウルということになるが、ルイジアナのアーティストでこうした成功(R&Bチャートで最高5位)はスタンにとってみれば願ってもないものだったろう。彼はやはりマッコールと一緒にやっていたバーバラ・ウェスト、今もテキサス州オースティンをベースにしているジョー・ヴァレンタイン(註:2018年7月13日没)など濃厚なサザン・ソウルでカタログを豊富にしていく。ロンに限ったことではないが、ジュウェルはその頃まで自分のスタジオというものを持っておらず、ウェスト・コーストのアーティストはウェスト・コーストで、テキサスのアーティストはタイラーで、ミシシッピ以東のアーティストはナッシュヴィルで、地元のアーティストはバトン・ルージュなどでレコーディングしていた。他に頻繁に利用したのがアラバマ州マスル・ショールズのスタジオである。フルスンをそこに送り込んでいるし、マッコール、ウェスト、テッド・テイラーらの作品はしばしばそこで録音され、内容的にも申し分ないものになった。ところが、70年代に入ってシュリーヴポートにサウンド・シティ・レコーディングというスタジオが設立(正確には69年発足)されるや、そこをベースにたくさんのレコーディングがなされることになる。そこでライター/プロデューサーとして大活躍したのが、自らポーラのアーティストでもあったボビー・パタースンと白人のジュリー・ストリックランドだ。彼らはウェスト・コーストのマイルス・グレイスンを引き継いでリトル・ジョニー・テイラーを手掛け、72年には“Open House At The House”(Ronn 64)をソウル・チャートの16位まで上げた。〈パート・タイム・ラヴ〉や〈エヴリバディ・ノウズ・アバウト・マイ・グッド・シング〉とは違った南部特有の丸味を帯びたゴスペル・ブルースは60年代のジュウェルの伝統を鮮やかに引き継いだものといってよかっただろう。

(左)
TED TAYLOR - “Miss You So / I'm Gonna Get Tough”
(Ronn 15)1967

(右)
ROSCOE ROBINSON - “Let Me Be Myself / Yesterday Is Gone (Tomorrow Is Too Late) ”
(Paula 350)1971

このスタジオでミュージシャンをやっていたといわれるのが、ファンク・コンピ(註:『Loose The Funk! - Boodie』)で6曲紹介したばかりのアフリカン・ミュージック・マシーンというグループ。彼ら自身はジュウェル傘下のソウル・パワーからデビューしているが、その詳しい話はライナー・ノーツの方に譲ろう。

ジュウェルの中で3本柱となったもうひとつのレーベルがポーラ(Paula)。これはスタンの妻ポーリンから取られたもので、最初は完全にロック/カントリー系のレーベルだった。地元のジョン・フレッド&ヒズ・プレイボーイズというガレージ・バンドがヒット曲を出しているが、彼らもそもそもはジュウェルからデビューしていた。だが、レーベルを差別化する意味でもポーラを新設する必要が生じたのだろう。

65年に入ると彼らはそちらに移り、ヒット曲も出し始めた。他にナット・スタッキーというカントリー系のシンガーもアルバムを作っており、まずは成功というところだったろう。ところが70年にデュークからバディ・エイスを引っ張ってきたあたりから黒人アーティストも増え、おなじみロスコー・ロビンスンフォンテラ・バス、先のボビー・パタースン、モントクレアーズなどソウルで充実した。とはいっても、キャッシュ・マッコールのポーラのアルバムからもわかる通り、ジュウェル/ロンの王道路線とは若干違う音を志向してきたことは確かだろう。

充実度を増した1970年代と多くの傍系レーベル

70年代に入ってもジュウェル/ロンの基本路線は変わっていない。ジュウェルではリトル・ジョー・ブルージョン・リー・フッカーメンフィス・スリムといった大物も加わり、ジュウェル特有のカラーが希薄になった感は否めないが、それをアルバート・ワシントンボビー・ラッシュバスター・ベントンといったニューカマーが補うといった按配だった。なお、やや蛇足になるが、このうちアルバートは別のジュウェルというレーベルからもレコードを出している。これはラスティ・ヨークらがレコードを出していたオハイオ州シンシナティのレーベルなのでお間違いないように。

ロンの70年代はさらに充実している感じだ。リトル・ジョニー&テッドの2人が引っ張り、それにつられるかのように、アル・キングブレンダ・ジョージアル・プリンスといったブルース系の人たちもカタログを埋めた。それよりも多彩だったのはシカゴのウィリー・ロジャーズジーニーズキャッシュ・マッコール、ウェスト・コーストのクレイ・ハモンド、南部のパタースン・トゥインズなど各地からタレントが集まったことだった。だが、70年代の風は必ずしもこのレーベルには気持ちの良いものではなかったのだろう。70年代末まで細々と活動を続けていたものの、ほとんど活動停止となり、一時その声は聞かなくなっていった。だが、84年にジュウェルとロンは復活し、ポーラの方でもカール・シムズがシングルを出すなど一応の“話題”はあった。結局のところ、スタンは亡くなったものの(註:2018年7月14日没)、その息子らに受け継がれ、カタログとして今も生き残っているのは立派だ。

BOBBY POWELL - “That Little Girl Of Min / C.C. Rider”
(Whit 714)

主に3つのレーベルに関してお話してきたが、実はジュウェルには傍系のレーベルというのがあった。ひとつはボビー・パウエルのいたウィットであり、これはライオネル・ウィットフィールドの持つレーベル。もうひとつはマーコで、これはディー・マレイズの持つレーベル。現在においてはそれぞれ独立したレーベルとして語られることが多く、その詳しい話は別の機会にということにしておきたい。他にもソウル・パワー、プラッシュなどのレーベルがあったが、それに関しても一部ファンク・コンピ2種で紹介したばかりであり、そちらの方を参照していただきたい。特に、ソウル・パワーにはトミー・ヤングジョージ・パーキンズといったサザン・ソウルのおいしい部分が詰まっており、Pヴァインではいずれソウル・パワーの全作品集としてリリース予定があるというので、その時にまた詳しいお話をしてみたい。(註:ソウル・パワーの全作品集『The Soul Power Story』PCD-24186は鈴木氏の監修・解説で2007年3月にPヴァインからリリースされた。)

(参考文献:“Blues Unlimited”#105 by Mike Leadbitter)

▶︎前編はこちらから

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スタン・ルイス

ビルボードのバイヤーズ・ガイドに載ったスタンズの広告


【CDで聴くジュウェル】(選・文/編集部)

THE CARTER BROTHERS
Blues On Tour: The Jewel Recordings 1965-69
(Westside WESD 235)

ヒットした〈サザン・カントリー・ボーイ〉ほか別テイクも含むジュエル録音36曲収録の2枚組CD。60年代南部モダン・ブルースの真髄!

FRANK FROST & JERRY McCAIN
Southern Harp Attack
(Pヴァイン PCD-20161)

南部ブルース・ハーピストのカップリング盤。マッケインの〈728 テキサス〉も収録。

ROSCOE ROBINSON
Heavenly Soul Music
(Pヴァイン PCD-24176)

ポーラでのシングル作とジュウェルでのゴスペル・アルバムをまとめた世界初の編集盤。スケールの大きいディープ・ソウル・シンギングを堪能。

THE MONTCLAIRS
Dreaming Out Of Season
(Pヴァイン PCD-22237)

フィル・ペリーが在籍したセントルイスのヴォーカル・グループ唯一のLPにボーナス曲を加えた日本独自盤。

Various Artists
Loose The Funk! - Eel
(Pヴァイン PCD-23830)

リトル・ジョー・ブルーやペパーミント・ハリスなど、ブルース系のファンキー・ナンバーを中心に組まれた編集盤。

Various Artists
Loose The Funk! - Boodie
(Pヴァイン PCD-23831)

上掲盤と対を成す編集盤。アフリカン・ミュージック・マシーン他を収録。

Various Artists
The Jewel Soul Story
(Pヴァイン PCD-5624/6)

1960年代から90年代に渡るジュウェルの歴史をソウルに焦点を当てて組んだ3枚組。重要曲はこれでばっちり。

(初出:『ブルース&ソウル・レコーズ 』2007年2月号No.73)


鈴木啓志

1948年北海道函館市生まれ。3歳の頃から東京に住み、現在川崎市在住。横浜国立大学経済学部卒。在学中にブルースやソウルのファン・クラブに深く関わるようになり、同時に執筆活動を開始、ブラック・ミュージック専門の音楽評論家となる。著書としては『R&B、ソウルの世界』(ミュージック・マガジン)、『ソウル・シティUSA~無冠のソウル・スター列伝』(リトル・モア)、『ゴースト・ミュージシャン~ソウル黄金時代、アメリカ南部の真実』(DU BOOKS)、『US Black Disk Guide』(編著/ブルース・インターアクションズ)などのほか、趣味の将棋の知識を活かした『東海の鬼 花村元司伝』(日本将棋連盟)もある。

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