RECORD
2018.5.6

MARTHA HIGH/Tribute To My Soul Sisters

これがソウル・パワー!JBファミリー歴代シンガーへ捧ぐ
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 10月に行われたマーサ・ハイのジャパン・ツアーを代官山UNITで体験した。「観た」というよりは「体験した」と言いたくなるライヴであった。彼女がステージに登場し、歌いだす前から、その笑顔とポジティヴなオーラをまとったたたずまいに引き込まれてしまった。そして歌い出せば、年齢なんてただの数字と言わんばかりの圧倒的な声がバシバシと迫る。あのジェイムズ・ブラウンと何十年も活動を共にしてきたマーサだ。ブラック・ミュージックのショウ・ビジネス界で最も厳しい耳を持つ男の脇で、彼を支えてきた実力は、簡単に測り知れるものではない。底知れぬソウル・パワーがそこにはあった。そのライヴの興奮も冷めやらぬまま、彼女の新作が登場する。

 マーサ・ハイはその長いキャリアに反して、ソロ活動が本格化したのは今世紀に入ってから。初のソロ・アルバムは1979年、サルソウルから発表した『Martha High』だが、その後、アルバムの発表は今世紀に入るまでなかったようだ。2012年にはUKのファンク・バンド、スピードメーターとの『Soul Overdue』を、昨年はイタリアのプロデューサー、ルカ・サピオが制作した『Singing For The Good Time』を発表している。後者はいわゆる“レトロ・ソウル”的な生音の感じを生かしながらも、サウンドの感触は人工的で、PCの中で作ったアルバムという印象が強かった。それまでにないマーサのアルバムとしては評価したいが、マーサがそこにいる意味があまり感じられないプロデュースでもあった。それに続くスタジオ作となる本作は、どうのようにマーサと向き合ったのだろうか。

 本作はアルバムのタイトルが表すように、彼女と縁深いJBファミリーのフィーメイル・シンガーたち、リン・コリンズ、マーヴァ・ホイットニー、ヴィッキー・アンダースン、タミー・テレル、シュガー・パイ・デサント、アナ・キングらの曲のカヴァーが主となる。プロデュースとバックを担うのは、オーサカ=モノレール。JBサウンドを追い求め、1960年代後半から70年代前半にかけてのソウル&ファンク・サウンドを徹底的に研究している彼らがバックをつけるとなれば、そのサウンドのクオリティは保証付である。マーヴァ・ホイットニーとの『I Am What I Am』でそれは実証済みだ。間違いない内容になるのは当たり前で、想定以上の何かが生まれるかどうか。

 アルバム冒頭からマーサがポンと前面に立体的に浮かび上がってくる。ライヴで体験したままの圧倒的な存在感がある。ストイックにJBサウンドを追求しているオーサカ=モノレールは、ここでは黒子に徹している。アルバムが「マーサ・ハイ&オーサカ=モノレール」ではない理由がよく分かる。JBファミリーのシンガーを往年のJBサウンドでバックアップするという図式は、予定調和を生みかねない。「うまいことやるなあ」という感想しか出てこない可能性もあった。しかし本作を耳にしていて、再現性の高さに気持ちが向くことはなかった。あまりにも自然。マーサをサポートする彼らに余計な気負いはなく、主役がくっきりと浮かび上がる心地よいグルーヴを奏でている。そしてJBのソウル&ファンク・サウンドが時に縛られず、いつの時代にもフレッシュであり続けることも証明している。

 深く、熱く、敬意を忘れずに、先人たちが成し遂げたことと向き合う。それを徹底して長年続けてきたから本作は生まれた。そう思いたい。こんな快作が簡単にできるわけがないだろう。オーサカ=モノレール結成25周年の今年、世界に誇るアルバムが登場した。(濱田廣也)

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