ルイジアナに行って
モージョ(・ハンド)を手に入れよう
ブルースの常套句として数々の曲に使われてきた一節だ。マディ・ウォーターズ〈ガット・マイ・モージョ・ワーキン〉、ライトニン・ホプキンス〈モージョ・ハンド〉、J・B・ルノアー〈モージョ・ブギ〉など、「モージョ」を歌った曲は多い。
「モージョ」とはアメリカ南部黒人の間で広まった民間伝承(フォークロア)の「フードゥ hoodoo」で用いられるまじない道具。ブルースの歌詞の中では、主に異性を惹き付けておくための道具として登場する。なおモージョを入れる袋は通常、赤いそうだ。ライトニン・ホプキンスのアルバム『モージョ・ハンド』のジャケットの色と同じである。
フードゥは、西アフリカの「ヴードゥ voodoo」のような宗教性はほとんどなく、18世紀にヨーロッパから入ってきたフォークロアが、奴隷が持ち込んだヴードゥやネイティヴ・アメリカンの信仰などと交わり、南部で土着したものとも言われる。
ブルースマンの中にはフードゥを全く信じていない者もいるが、黒人の間で信じている者がいることは確かである。ブルースの歌詞でフードゥに関連すると思われる言葉や行動が頻出するのも、それが身近な存在だったからに他ならない。
モージョの他にブルースの中によくあらわれるフードゥのまじない道具では、「ブラック・キャット・ボーン」や「ラビット・フット」がある。黒猫はヨーロッパでは不吉の象徴とされることがあるが、フードゥでは黒猫は特別な力のある骨を持っているとされ、それはまじない道具として用いられた。別れた恋人を取り戻したり、自分の姿を消す、あるいは、命と引き換えに名声を得るといった効果があるとされている。うさぎの足は幸運をもたらすお守りだ。
ロバート・ジョンスンがギター上達の代償として悪魔に魂を売ったというクロスロード伝説や、彼の〈ヘルハウンド・オン・マイ・トレイル〉に登場する「ホット・フット・パウダー」もフードゥに関するものだ。
ブルースの歌詞がどういった文化を基盤として作られているのか。その分かりやすい例がフードゥなのである。
ブラインド・レモン・ジェファスンの1926年録音〈ラビット・フット・ブルース〉の広告。歌詞にウサギが出てくるが、フードゥー・アイテムの「ラビット・フット」についての歌ではない。ウサギはトリックスターとして、アメリカ黒人の民話にも登場する
RL─ロバート・ジョンスンを読む 日暮泰文 著/Pヴァイン・ブックス刊 [2011]
「クロスロード伝説」を筆頭に、ロバート・ジョンスンとフードゥの深い関係も読める、著者のジョンスン研究の集大成となる一冊。CD付