現在「女性ブルース・ギタリスト」の代表として活躍するアナ・ポポヴィッチの新作『ライク・イット・オン・トップ』は、これまでにない印象を与える作品に仕上がった。
2001年にドイツのルフ(Ruf)・レコードから本格デビューして以降、順調にアルバムを重ねてきたアナ。2007年には西海岸のエクレクト・グルーヴ(Eclecto Groove)へと移籍し、1990年代にバディ・ガイ、オーティス・ラッシュ、タジ・マハールらの作品を手がけ名を上げたプロデューサー、ジョン・ポーターを招いてアルバムを制作し評価を高めた。2016年には3枚のアルバムで構成した『トリロジー』を発表。得意とする攻撃的なギター・リフを生かしたハードなブルース・ロックから、ファンキーなソウル・ナンバー、そしてアプライト・ベースを含むコンボとのジャジーなセットまで、その幅広い音楽性を存分に披露していた。
アナ・ポポヴィッチといえば、巧みなギター・プレイを前面に出し、力強く歌い上げる印象が強いのだが、ケヴ・モをプロデューサーに迎えた新作『ライク・イット・オン・トップ』ではこれまでになく肩の力の抜けた姿を見せる。アルバム冒頭が、レゲエのリズムを生かした曲から始まることもその印象を強くしているのだろう。ケヴ・モとのデュエットによるその「ラスティング・カインド・オブ・ラヴ」に続くアルバム・タイトル曲「ライク・イット・オン・トップ」ではロベン・フォードも加わり、ファンキーなミディアム・ビートに乗ってグルーヴィに迫る。ケニー・ウェイン・シェパードがゲスト参加した3曲目「セクシー・トゥナイト」は、アグレッシヴなギター・リフを主としたブルース・ロックだが、コンテンポラリーな感覚がにじみ、激しさ一辺倒ではない、やわらかさも見せる。カントリー・ソウル・バラード「スロウ・ダンス」での言葉を丁寧に伝える歌唱も実にやさしくソウルフル。ブルースやソウルを下敷きにしながらも、現代性を強く感じさせている点は、本作の最も注目すべきところだろう。その点でプロデューサーのケヴ・モの功績は大きい。彼は古いブルースを現代的視点で生まれ変わらせてきた第一人者なのだから。
ナッシュヴィルで録音された本作のもうひとつの聴きどころは、ベースのエリック・ラメイ(Eric Ramey)とドラムスのマーカス・フィニー(Marcus Finnie)のプレイだ。二人が生み出すシャープでタイトなビートは派手ではないが、フロントに立つアーティストを引き立てる役目を見事に果たしている。二人はケヴ・モとタジ・マハールのユニット、TajMoのアルバムにも参加している。
「女性ブルース・ギタリスト」のトップを走らんとするアナ・ポポヴィッチ。「女性であること」への意識も強く、ホームページでもそうした発言が見られるが、その気持ちがときに気負いとなって作品に現れることがあった。本作では、押すだけではなく引くことを見せ、懐の深いアルバムを生み出した。アナの潜在能力を完璧に引き出したケヴ・モの的確なプロデュースにうなるしかない。
アナ・ポポヴィッチ/ライク・イット・オン・トップ
ANA POPOVIC / Like It On Top
(ArtisteXclusive Records)
国内盤はBSFM RECORDSより2018年9月21日発売(BSMF-2622)
Photo by Michael Roud
アナ・ポポヴィッチ公式サイト
anapopovic.com