80年代に映画『ブルース・ブラザース』がヒットし、スティーヴィ・レイ・ヴォーンやロバート・クレイが登場したことで、非黒人の間でのブルースへの関心が高まっていく。90年代にはブームと言えるほどに、ブルース人気が高まった。
80年代後半から急速に普及したCD(コンパクト・ディスク)は、音楽市場を膨らませた。アナログ(ヴァイナル)・レコードからCDへの移行で、過去の作品の復刻(リイシュー)も進み、それまでレコードでは入手しづらかった作品など、ブルースの名盤も数多くCD化された。
1990年に登場したCD2枚組のロバート・ジョンスンの完全録音集はブルースのアルバムとしては異例の売上を記録し、音楽業界を騒がせた。当時レコード会社の人間が、ロバート・ジョンスンの記者会見を開こうとしたという笑い話もある。この完全録音集の発売が告知されてから長い年月が経っていたため、長年のブルース・ファンが飛びついたのは分かるとしても、合計100万セット以上を売上げるには、ここで初めてロバートの存在を知った人々が多かったということだ。エリック・クラプトンやキース・リチャーズから推薦文が寄せられたことも影響したのだろう。
大手レコード会社は次々にブルースのCDを発売した。復刻作品はもちろん、新たにブルース用のレーベルを立ち上げて新録作品も発表している。バディ・ガイがゾンバ・ミュージック・グループのシルヴァートーンから新作を出したことは、その象徴となるだろう。91年の『ダム・ライト、アイヴ・ガット・ザ・ブルース』は50万枚を売上げた。
1992年には、当時話題となっていたテレビ番組「MTVアンプラグド」にエリック・クラプトンが出演し、オリジナル曲よりもブルースのカヴァーを多く披露。8月に発売されたアルバム『アンプラグド』は全米チャート1位を獲得し、爆発的に売れた。世のブルース熱はこれによりさらに上昇した。
ヴァーヴ傘下のジタン(Gitanes)はブルース・シリーズを開始し、ジェイムズ・コットン、チャールズ・ブラウン、クラレンス・ゲイトマウス・ブラウンらのヴェテランだけでなく、ラッキー・ピータースン、バディ・スコットといった若い世代の作品も手掛けた。
エピック・レコードは初のブルース・レコードと言われるメイミー・スミスの〈クレイジー・ブルース〉を発売したレーベル、オーケーを復活させ、1994年にケブ・モ、G・ラヴ&ザ・スペシャル・ソースを世に送り出す。ケヴ・モはケヴィン・ムーアの名で1980年にアルバムを出すなど、70年代から活動していたが、端正なアコースティック・ブルースを軸に再デビューとなった。G・ラヴはヒップホップ世代らしい、新しい感性でブルースを表現し、話題をさらった。
インディ・レーベルも含め、90年代はブルース・バブルの様相を呈していた。この時期にブルースと出会った世代が、それぞれのやり方で新しいブルースを生み出すことになる。
Robert Johnson / The Complete Recordings
(Columbia C2K 46222) [1990]
Keb’Mo’ (Okeh/epic EK 57863) [1994][左]
G.Love & Special Sauce (Okeh/epic EK 57851) [1994][右]
1994年に再興されたオーケー・レーベルから登場した、ケヴ・モとG・ラヴ&スペシャル・ソース。ブルースの新しい動きとして注目された