ブルース&ソウル・レコーズ

【特集:伝えておきたいブルースのこと】㉝大西洋の向こうで

Sonny Boy Williamson & The Yardbirds (Mercury SR 61071) [1966] サニー・ボーイとヤードバーズの共演盤は ロンドンのクロウ・ダディ・クラブでのライヴ録音

 「フォーク・リヴァイヴァル」を準備した一人、民俗学者のアラン・ロマックスは英国でラジオ番組を持っていた。そこでビッグ・ビル・ブルーンジー、レッド・ベリーといった黒人ブルースマンの曲を含む、フォーク・ソングを紹介していた。1950年代の話だ。それは英国の「スキッフル・ブーム」を導くことになる。

 英国でのブルースの広まりについては、2003年のブルース・ムーヴィ・プロジェクトのひとつ『レッド、ホワイト&ブルース』(マイク・フィギス監督)を観ることをすすめたい。エリック・クラプトン、ローリング・ストーンズ、ジェフ・ベック、ヴァン・モリスンら英国ロックのスターたちが、自らの体験を通して、ブルースと英国について語るドキュメンタリーだ。

 そこでも触れられる最重要イヴェントが、1962年に始まったアメリカン・フォーク・ブルース・フェスティヴァル(以下AFBF)を始めとする、黒人ブルースマンたちの渡欧であった。50年代終りにビッグ・ビル・ブルーンジーが一足早くオランダ等のヨーロッパ諸国を訪れていたが、ドイツ人プロモーター、ホルスト・リップマンによるAFBFは、シカゴのウィリー・ディクスンの手助けを得て、初めての大規模で本格的なブルース・ツアーとなった。

 出演者はサン・ハウス、スキップ・ジェイムズ、ブッカ・ホワイト、ブラウニー・マギー&サニー・テリーなどの「フォーク/ブルース・リヴァイヴァル」組や、マディ・ウォーターズ、ハウリン・ウルフ、サニー・ボーイ・ウィリアムスン(ライス・ミラー)ら、シカゴ・ブルースの顔となる面々、オーティス・ラッシュ、ジュニア・ウェルズ、バディ・ガイら、シカゴの若手たち、他にもTボーン・ウォーカー、ライトニン・ホプキンス、ジョン・リー・フッカー等、今思えばなんとも贅沢なラインナップが組まれている。当時の映像は2003年以降、DVDで正規リリースされ、ファンの間で大きな話題となった。ブルースに関する映像では、五指に入る重要なものと言えよう。

 英国の若い音楽ファンに大きな刺激を与えたAFBFは、ブルース志向のミュージシャンたちの恰好の学びの場ともなった。ヤードバーズとアニマルズはサニー・ボーイ・ウィリアムスンと共演し、Tボーンズと、イアン・マクレガンがいたミュールスキナーズはハウリン・ウルフと共演している。

 ブルースマンたちの英国上陸は、後にブリティッシュ・ブルースを生み出す原動力となり、欧州でのブルース・ブームを引き起こす。そして、ブルースマンに新しい職場を与えることにもなった。メンフィス・スリムはフランスに、チャンピオン・ジャック・デュプリーは英国とドイツに、エディ・ボイドはフィンランドで過ごし、ヨーロッパを活動の場とした。

 海を越えたブルースの広がりが始まったのである。


[左]アメリカン・フォーク・ブルース・フェスティヴァルの映像は2003年にリーリン・イン・ジ・イヤーズ・プロダクションによってDVD化。Vol.1〜3とブリティッシュ・ツアー編の4タイトルが出た。また、独トロピカル・ミュージックからは、2008年に“Legends of The American Folk Blues Festivals”のタイトルで1967/68/69年の映像がまとめられている(写真右)

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