ブルース&ソウル・レコーズ

【特集:伝えておきたいブルースのこと】㊲実験? 迷走? 冒険?

Muddy Waters / Electric Mud (Cadet Concept LPS 314) [1968] 付属のリーフレットにはマディが美容院でパーマをかける写真が掲載されている

 ジミ・ヘンドリクス『エレクトリック・レディランド』、『クリームの素晴らしき世界』、スライ&ザ・ファミリーストーン『ダンス・トゥ・ザ・ミュージック』が発売され、サイケデリックとフラワームーヴメントが真っ盛り。そんな1968年に登場したのが、マディ・ウォーターズの異色アルバム『エレクトリック・マッド』だ。

 ブルース史上最大の問題作という人もいれば、存在自体を無視する人もいる。90年代に初CD化され、再評価の声も上がったが、時代のあだ花と見る人も多い。当時、「ブルースに対する冒涜だ!」と怒りだす人もいたという。

 マディをサイケデリックに染め上げ、若いファンにアピールする。それが本作のねらいだった。プロデュースしたマーシャル・チェス(レナード・チェスの息子)は「ただの実験だった」と軽く流し、「その当時のマディの作品では一番売れた」という。マディ本人は「でっかいアンプやらワウワウやら、ギターの音色をへんてこにするような機材を使った日にゃ、ブルースなんてプレイできっこないさ」と否定的だ。

 制作に参加したのは、ロータリー・コネクションやアース・ウィンド&ファイアの仕事で知られる鬼才チャールズ・ステップニーを中心に、マイルス・デイヴィスとの共演で名高いピート・コージー(ギター)やシカゴの名セッションマン、フィル・アップチャーチ(ギター)らが参加している。名うてのセッションマンが揃っただけに、聴き手を引き込む強い力がこのアルバムにはある。

 賛否が渦巻いたとはいえ、新しい購買層に向けてのブルース再構築は、ロック・マーケットにおけるブルースのあり方を考える上で得難い実験でもあった。

 2003年のブルース・ムーヴィ・プロジェクトの一作『ゴッドファーザー&サン』(マーク・レヴィン監督)では本作参加ミュージシャンと、ヒップホップ・アーティストのチャック・D、コモン、クエストラヴらがコラボレイトする。時を経て、世代を越えた繋がりをもたらした『エレクトリック・マッド』。今後も問題提起をし続けてくれそうだ。


The Howlin’ Wolf Album
(Cadet Concept LPS-319) [1969]
“Electric Mud”に対してハウリン・ウルフもサイケ調アルバムを発表。写真はチェスがオール・プラチナムに買われた時期のプレス


Muddy Waters / After The Rain
(Cadet Concept LPS-320) [1969]
“Electric Mud”の続編的内容だが、自作曲も増え、
混沌度は抑えられている

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