ロック・マーケットを視野に入れたブルースがある一方で、アーバン・ブルースの流れを汲む、黒人街向けに新しく仕立てられたブルースも生まれていた。ソウル時代のブルースといえるものだ。
1960年代に入る頃からソウルは明確にブラック・ミュージックの本流となりつつあった。レイ・チャールズ、サム・クック、ジェイムズ・ブラウン、ジャッキー・ウィルスンといったシンガーによりソウルは準備され、モータウン、スタックス(メンフィス・ソウル)の躍進、そしてアリサ・フランクリンの登場で、完全にソウルの時代が訪れた。それは白人主流社会にソウルの存在が認められたということでもある。70年代に入ると「ニュー・ソウル・ムーヴメント」と呼ばれる動きが現れた。より内省的で、社会問題への言及も多い歌詞、ジャズのリズムやハーモニーを積極的に用い複雑化した器楽演奏が特徴となる。マーヴィン・ゲイ、スティーヴィ・ワンダー、カーティス・メイフィールド、ダニー・ハサウェイらがその中心にいた。
様々に分岐したソウルが登場し、ファンクも燃え盛る中で、黒人社会におけるブルースの居場所が狭くなったのは確かだ。しかし、ブルースはしぶとかった。主に南部の労働者階級に訴えたサザン・ソウル(南部産ソウル)は、アーバン・ブルースの新形態といえるし、ソウル・マナー(ゴスペル/教会音楽の大胆な導入)を用いた60〜70年代仕様のブルースもあった。
ジョニー・テイラー、リトル・ジョニー・テイラー、リトル・ミルトン、タイロン・デイヴィス、アン・ピーブルズ、O・V・ライト、Z・Z・ヒルといったシンガーは、時代に即したブルースを黒人たちに向けて歌った。彼らを指して「ブルーズン・ソウル・シンガー」「ソウル・ブルース・シンガー」と呼ぶこともある。
古株のB・B・キング、ボビー・ブランドも健在だった。両者ともに70年代に入ってもR&Bチャートにヒット曲を送り続け、トップ10ヒットも数曲ずつ放っている。B・Bは1970年に〈ザ・スリル・イズ・ゴーン〉でR&Bチャート3位、ポップ・チャート15位という、彼最大のクロスオーヴァー・ヒットを生み出した。アルバムではロック・マーケットを睨んだ作品も出していたが、ステージでは変わらぬブルースを聴かせていたのである。
B.B. King / Completely Well
(Bluesway BLS-6037) [1969]
〈ザ・スリル・イズ・ゴーン〉収録。録音は1969年だが、同曲は翌年にチャートイン。70年代のブルースにひとつの道を開いた
Little Milton / Blues’n Soul
(Stax STS-5514) [1974]
“ミスター・ブルーズン・ソウル”ことリトル・ミルトンが、ブラック・ミュージック名門レーベル、スタックスに残したアルバム。70年代のブルースを代表する作品だ